箸を休めていたら「こんくらい食べ切らんと!」と叱られた。地元の陶器、上野(あがの)焼の皿からあふれた直径25センチのミックス焼き。腹に収まらず困っていると「包んでやるけん、夜に食いない」。声の主は谷本智代子さん(70)。駅の中でお好み焼き店「美代」を営む。
30歳の時、赤池町(現・福智町)内で開業した。1992年、駅舎の中に店を移転。2003年には平成筑豊鉄道から「名誉駅長」に任命された。
朝は駅の掃除から。ホームをほうきで掃き、ベンチや自動販売機を丁寧に拭き上げる。移転した当時は「たばこの吸い殻にシンナーの袋が散らかっとった」。中高生に「親のすねかじりが何ばしよると?」と問いかけ、時には声を荒らげて叱ることも。怖くなかったんですかと聞くと、「ここは私の駅。親のつもりで接しているけん、何も怖くなか」。
町内に住む会社員の天野克也さん(27)も、駅前で騒いで叱られたことがある。「注意ばされて。怖いお母さんみたいだった」。高校時代は週に1度通った店で、臨月を迎えた妻の智恵さん(28)と10年ぶりに肉玉スルメ焼きをほお張る。
「友だちの兄ちゃんがおるったい」。天野さんが指さした壁には一面に常連客の写真。いつしか客が置いていくようになって、今では150枚ほどに。「子どもが生まれたら写真持って遊びに来んしゃい」と谷本さん。店の歴史に新しい1枚がもうすぐ加わる。
文 岡山朋代/撮影 比田勝大直
平成筑豊鉄道伊田線は、直方駅(福岡県直方市)と田川伊田駅(田川市)を結ぶ16.1キロ。 直方駅から徒歩約15分の直方市石炭記念館(TEL0949・25・2243)は、1976年を最後に幕を閉じた筑豊炭田の歴史を後世に伝える資料館。実際に使われていた蒸気機関車、掘削用大型機械など約4千点が展示されている。100円。(月)休み。 金田駅からバスで約20分のふるさと交流館日王(ひのう)の湯(TEL0947・48・3333)は、温泉や特産品販売コーナー、レストラン、宿泊室(料金別)などを備えた複合施設。600円。
|
||
かまぼこ形の駅舎には「いい歌、いい町、いい自然。」の文字。旧赤池町は童謡「かもめの水兵さん」などを作曲した河村光陽の故郷だ。駅舎の改築費用の5分の3、約1500万円を住民が寄付し1996年に完成した。 |