雨上がりの晴れた土曜日。終着駅のホームで手づくりの結婚式が開かれた。花嫁は駅に隣接する空知(そらち)中央病院の看護助手。折り返す列車に乗り込む新郎新婦を、病院付属保育所の園児たちが大きな声で見送った。「いってらっしゃーい」
お見送りはこの日に限らない、いつもの朝の光景だ。毎朝9時41分、元気いっぱいの声に始発列車が包まれる。「7カ月の赤ちゃんも抱っこされて参加します」と保育士の島谷真由美さん。土曜日には法被(はっぴ)を着て和太鼓をたたきながら「ドンドン」「ヤァ!」。乗客には園児が色を塗った絵はがきが贈られる。「無人駅で、こんな歓迎を受けるとは」と旅行中の男性。「また来るね」と満面の笑みで車窓から手を振り返した。
新十津川町は1889(明治22)年に大水害にみまわれた奈良県十津川村の村民が集団で移り住み、開拓した町だ。だからこそ町を守ろうとする思いは強いのか。「駅が寂れないように」と病院職員が中心となって、駅前に花を植えたり駅の情報をホームページで紹介したり。昨年からは空き地でポニーを飼い始めた。列車の発着は一日に3本。列車が来ない時間も、花を楽しんだりポニーにニンジンを与えたりと人々に親しまれている。
「病院は200床ありますが、駅は201床目のような存在。患者さんの次に気になってお世話をしてしまうんです」。看護師の後藤千枝さんが仲間たちの気持ちを代弁してくれた。
文 永井美帆/撮影 馬田広亘
JR札沼線は桑園駅(札幌市)と新十津川駅(新十津川町)を結ぶ76.5キロ。桑園駅の隣の札幌駅から新十津川駅までは学園都市線の愛称で呼ばれる。 町開拓記念館(TEL76・2622)へは新十津川駅から徒歩10分。奈良県十津川村の大水害から入植、開拓までの歴史を学べる。140円。(月)(火)休み((金)は午後1時まで)。駅から徒歩5分のヴルストよしだ(TEL72・2525)は手作りハムとソーセージの店。モルタデッラ(200グラム735円)は、トーストしたパンに乗せると脂身が溶けてジューシーに。地方発送可。(月)休み。
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新十津川駅から車で5分の金滴酒造(TEL0125・76・2341)は1906年創業。町民らが共同で始めた。地元産の米と近くを流れる徳富(とっぷ)川の伏流水でつくる「北の純米酒」(1.8リットル1998円)のほか、酒かすを使ったケーキやアメなども販売。 |