北アルプスを望む長野県の安曇野市。ワサビ田や豊富な湧水(ゆうすい)、多くの美術館で知られるこの地は、道祖神の宝庫とも言われています。日本の原風景のような自然の中、自転車に乗って、小さな神様たちを訪ねました。
取材・文/小寺美保子
自転車でめぐる身近な神様
かつて辻などに置かれ、集落に悪いものが入るのを防ぐ魔よけとして祀(まつ)られたという道祖神。やがて人々は五穀豊穣(ほうじょう)、子孫繁栄、縁結びなどの願いを込めていった。
山梨や群馬など各地に残るが、中でも数多く現存するのが安曇野市だ。その数約600体。江戸時代後期、各集落で競うようにつくられたといい、市観光協会ではマップを作り、自転車や徒歩で巡るコースを紹介している。安曇野の玄関口、穂高駅前で自転車を借り、マップを参考に周辺を巡った。
寄り添う男女に幸せ気分
青空の下、北アルプスがくっきりとそびえている。のどかな田畑や民家の間を進んでいくと、道行く人が「こんにちは」と声をかけてくれて、あいさつを交わすのが気持ちいい。まず目にしたのは、丸みを帯びた石に彫られた男女の神様。そっと寄り添って手を握っていた。顔を少し互いの方に向けてほほえんでいて、何とも愛らしいこと。
安曇野には男女が並ぶ像が多いそうだ。握手をしたり、肩を組んだり、徳利(とっくり)と杯を持って「祝言」をするものも。彩色や、像の周りに鳥居や文字を彫ったものなど、実に多彩だ。夫婦和合、子孫繁栄などを願っているという。山奥には、相手の足を踏んで「浮気封じ」を意味するものもあるとか。庶民的でどこかユーモラス。石像に込めた人々の思いが伝わってきて、眺めているだけで幸せな気分になってくる。
心地よい風を受けながら、「早春賦」の碑が立つ穂高川沿いや、ワサビ田のそばを走り抜ける。アルプスからの伏流水が至る所で湧水となってあふれていた。つい足を止め、その冷たさに触れたり、水音に耳を傾けたり。ゆったり約3時間をかけて20体近くの道祖神に出会えた。
道祖神の穏やかな表情は、安曇野で会った人々にどこか重なるような――。温かな気分に満たされるのを感じながら、帰路についた。
安曇野市観光情報センター レンタサイクル |
穂高神社
穂高見命(ほだかみのみこと)を祀る。今年の「道祖神祭り」は8月24、25日に行われる。
【DATA】
安曇野市穂高6079
TEL0263・82・2003