長崎県の西方に浮かぶ五島列島。美しい海に囲まれた島々には、約50もの教会が点在する。多くのキリスト教徒が住む、信仰あつき「祈りの島」を歩いた。
取材・文/山田絵理佳
キリスト教伝来の地として知られ、多くのキリスト教関連遺産が残る長崎県。県内にある教会約130のうち、五島列島には約50が残る。中でも中通島や若松島など、七つの有人島と60の無人島から成る新上五島町には29の教会があり、住民の4人に1人がカトリック教徒という町だ。その一人、同町職員の山田潤さん(29)の案内で、頭ケ島天主堂と青砂ケ浦教会を訪ねた。
頭ケ島天主堂は、世界遺産登録を目指す「長崎の教会群とキリスト教関連遺産」の構成資産のひとつ。入り江に面した小さな集落の奥にたたずむ、全国でも珍しい石造りの教会だ。ザラザラとした厚みがあるブロックを積み重ねた外壁からは、れんがのような温かみを感じる。信徒が協力し、対岸の島など頭ケ島周辺から切り出した砂岩でできており、採石から建設まで7年をかけた。
中に入ると、青と白が基調の明るい空間が広がる。天井には壁との隙間に白い花があしらわれていた。花はツバキだろうか。五島列島の名産であるツバキは、新上五島町の花木に指定され、山田さんによると、島の教会には、ツバキがデザインされていることがよくあるという。現在、教会のある頭ケ島地区には約10世帯が住み、ほぼ全員が信徒で、地元住民の祈りの場になっている。
高台に建つ青砂ケ浦教会を訪れたのは、日没が近づいた夕方。「夕日が差すと、床にうつるステンドグラスの模様がすごくきれいです」と山田さん。期待に胸をふくらませるも、修道女が子どもたちに聖書の内容を教える「稽古」が始まるからと、入り口で止められてしまった。山田さんも小さい頃から地元の教会に通っているという。げた箱に並ぶ小さな靴を見て、この島の子どもたちにとって、キリスト教は生活の一部なのだと感じた。
一方で、こんなのどかな風景からは伺い知れない迫害の歴史もある。福江島にある堂崎天主堂の内部はキリシタン資料館として公開されており、白磁の観音像をマリア像に見立てた「マリア観音」など、弾圧時代の資料が残る。
250年もの長い潜伏の時代を経て、信仰の自由を得た信徒たちは、それぞれの居住地区に教会を建てた。今も続くキリスト教の文化は、先人たちが守り続けた信仰の歴史の上に築かれた、平和の証しなのだ。
海 |
椿 |
「五島うどん」
「五島うどん」は、五島列島の特産品。そうめんを太くしたような麺を、トビウオの出汁(だし)で食べる。コシがある細麺で、つるつるとしたのどごし。鉄製の釜でうどんを煮る様子を「地獄炊き」と呼ぶ。
「五島うどんの里」(新上五島町、TEL0959・42・2655)などで食べることができる。
「船崎うどん伝承館」(新上五島町)では、うどん作り体験も。
申し込みは新上五島町観光物産協会(TEL0959・42・0964)。