約1200年前、弘法大師・空海が開いた真言密教の聖地・高野山では、山全体を寺ととらえ、豊かな森を守ってきました。樹齢600年、高さ60メートルを超える巨木もそびえる森を舞台にした「森林セラピー」を体験してきました。
取材・文/蒔苗沙都子
写真/鳥元真生
標高900メートル、夏でもひんやりした空気が漂う高野町は、どこを歩いてもスギやヒノキのすがすがしい香りに包まれている。その香りの源は、すぐそこに迫る高野山の深い森。スギやヒノキ、コウヤマキなど「高野六木(こうやりくぼく)」と呼ばれる木を植樹し、健やかな森を保ってきた。
2007年に始まった「森林体験プログラム」は、聖地の森で心身を浄化し、五感を使って森と向き合う時間だという。午前10時、高野山寺領森林組合の森林ガイド・西田安則さん(55)と高野山の信仰の中心地・奥之院の参道を歩き始めた。
自然との向き合い方を知る
約2キロメートルにわたる参道には、豊臣秀吉や武田信玄らの供養塔、芭蕉の句碑など約20万基が並ぶ。石の供養塔や木々は青々としたコケに包まれ、それらが一体となって森を作っているよう。西田さんに促され、コケと同じ高さまで目線を下げてみると、ふわふわと生い茂るコケの中に、小指の大きさほどのキノコが無数に見えた。「目線を変えることで森の見え方が違いますよね」と西田さん。森の新しい楽しみ方を教えてもらった。
森の音、香りに感覚を研ぎ澄ます
森の中での瞑想(めいそう)にも挑戦。ござの上に座り込むと、木々の香りに加え、地面から立ち上るみずみずしい土の匂いにも気づく。その全てを体に取り込みたくて、深呼吸を数回。寝転がって目を閉じる。鳥のさえずりや沢の水音に耳を澄ませ、時折ザァっと音をたてる木々から風の強さを感じ、まるで自分も自然の一部分になったような気分に。
仏教には香りで身を清める習慣があるという。金剛峯寺の「根本大塔」にも、複数の香木を混ぜた粉末「塗香(ずこう)」を置き、参拝者は香りで身のけがれを除く。
森が放つ天然の「塗香」で身も心も清め、すがすがしい気持ちで再び都会の生活に戻った。
森林体験プログラム |
高野山の香りを自宅でも
「香老舗 高野山大師堂」では、高野山で採取されたコウヤマキやスギなどを水蒸気蒸留して作られたアロマオイルを販売。清々しい高野山の香りが自宅でも楽しめる。高野槙(まき)のオイル(5ミリリットル)1470円ほか。
【DATA】
高野町高野山732(TEL0736・56・3912)。
インターネットによる通信販売も。
http://www.koyasan.co.jp/daisido/