西から見ると、富士山にも似た雄大な姿。しかし北や南から見ると、荒々しい岩肌がむき出しに。見る角度によって異なる様相を持つ神秘の山・大山も、6月は登山シーズン。西日本最大級の面積のブナ林を抜けてたどり着いたのは――。
取材・文/河瀬久美
「伯耆冨士」で山ガールデビュー!?
ちゃんと運動するのは体育の授業以来、登山経験ほぼなしの、文化系女子の筆者。山ガールに憧れて、標高1709メートルで伯耆(ほうき)富士とも呼ばれる中国地方最高峰、大山に挑戦!
標高780メートルの登山口付近の宿に前泊して、朝8時にいざ出発。登るのは、頂上まで続く「夏山登山コース」。大山の登山ガイド歴30年の久保昌之さん(57)の後について、ゆっくり歩く。時折すれ違う登山客へのあいさつも忘れずに。
標高が上がるにつれて、ブナが増えてきた。「6月は、ブナの『新緑』が『深緑』に変わりはじめる、一番いい季節ですよ」と久保さん。ブナが日差しを遮るため、ほかには小さな木しか生えず、雨が降っても山道が明るいという。「ブナは根に水を蓄えて、濾過(ろか)してくれることから『森のダム』と言われています」。ふもとには飲料メーカーの工場があり、地下を通って流れ落ちた水はミネラルウオーターに採用されている。
国立公園にも指定されている大山の自然の魅力は、ブナだけではない。久保さんが、キツツキが虫を探して木の幹に空けた穴や、ヤマネの巣を教えてくれた。生息する昆虫の数は1000を超え、貴重な野鳥も見られる。「植物の中には、大山の固有種も。6~7月には、『ダイセンオトギリ』や『ダイセンクワガタ』。見られたらラッキーですよ」
五合目を過ぎたあたりが森林限界。木がまばらになってきた。時は4月下旬。まだ残る雪に足をとられながら、午前10時半、標高約1360メートルの6合目に到着。振り返ると、右手には荒々しい岩肌に雪化粧した山の北壁が、左前方には紺碧(こんぺき)の日本海が。その眺めに、疲れも吹き飛んだ。
山頂は近くに見えるが、ここから道はいっそう険しくなるという。文化系の体力はここで限界に。頂上からの絶景と、その手前に広がる国の天然記念物、ダイセンキャラボクの群生林は次回の楽しみにした。
周辺施設も魅力いっぱい
大山周辺には、登山のほかにも気になる施設がいっぱい。
大山の裾野にある「大山まきばみるくの里」は、県内約160戸の酪農家が加盟する大山乳業農業協同組合の直営施設。甘くてコクのある新鮮な牛乳や乳製品が購入でき、自慢のバターや生クリームを使った料理が楽しめるレストランやバーベキューキャビンも。約130万平方メートルの放牧場を併設し、大山と、のんびり草をはむ牛たちをバックに食べたい。
「とっとり花回廊」は、総面積約50万平方メートルで、日本最大級のフラワーパーク。6、7月は、約190種のバラや約100種のユリが見ごろに。約5万株のマリーゴールドが一面に広がる花の丘も見逃せない。
「植田正治写真美術館」は、今年生誕100周年を迎える境港出身の写真家・植田正治の作品を展示する。記念展示の企画展「植田正治の『実験精神』」を開催中(6月30日まで)。遠近法で、遠くの人物が手前にある帽子の上に乗っているような作品など、植田のチャレンジ精神や遊び心が見える約250点が並ぶ。
DAISEN WONDER
大山周辺の自然と触れ合い、歴史を感じられるようなエコツアーを運営するサイト(http://daisenwonder.com)。人気は、大山中腹からブナ林やヨーグルト工場を経て、日本海までの25キロをゆっくり下るダウンヒルサイクリングや、渓流の中をずぶ濡れになって歩くシャワークライミング(夏季限定)。
大山登山ガイド 宿「チロル&白樺」内の大山ガイドクラブ(TEL0859・52・2818)まで要予約(有料)。 大山まきばみるくの里 とっとり花回廊 植田正治写真美術館 |
9月21日(土)~11月10日(日) 鳥取市・湖山池公園にナチュラルガーデンを展開するなど、「鳥取流緑化スタイル」を発信。とっとり花回廊も会場に。 10月19日(土)~21日(月) 自然と調和した観光振興を目指す、エコツーリズムの大会。大山周辺の自然を訪ねるさまざまなコースに参加できる。 |
大山地どり
近年、東京でも人気の大山地どりは、シャモをベースに研究・開発された鳥取の地鶏。
歯ごたえが良く、低脂肪でコクがある野性味あふれる味で、水炊きや焼き鳥はもちろん、すき焼きなどとも相性が良い。
写真右=品種や飼育方法などさまざまな条件をクリアした「大山地どり」
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休暇村 奥大山 鈴木敏康さん
標高920メートルの高原 四季折々の魅力が満載 |
大山の南麓(なんろく)に位置する、ここ奥大山の鏡ケ成高原は、標高約920メートルにあり、真夏でも最高気温が27度くらいです。夕方や夜間には20度以下になることも多く、避暑地としては最高の場所です。ゆったりくつろげると、60代以上のお客様が多くいらっしゃいます。 奥大山は、大山エリアの中でも開発された観光地が少なく、日本の田舎の原風景がそのまま残されています。6月はホタルが舞う幻想的な光が見られ、10月下旬~11月上旬の紅葉は大変美しく、特に鍵掛峠からの眺めは絶景です。11月下旬には雪が降り始め、12月初旬にはスキー場がオープンします。ここは西日本でも随一の積雪量を誇り、3月下旬までスキーを楽しむことができます。 大山は見る角度によって山の姿が違って見えるので、休暇村前を通る大山環状道路で「大山一周ドライブ」もおすすめです。特に11月上旬、大山の初冠雪直後は、頂上付近の雪の白、中腹の紅葉、麓(ふもと)の緑による三色のコントラストが素晴らしいです。 ぜひ一度この景色をご覧下さい。お待ちしています。 |