三朝温泉は今年開湯850年。自然豊かな山々に囲まれた温泉街は、湯治宿、射的場、駄菓子屋が並び、どこか昔懐かしい、レトロな空気が漂う。
取材・文/小寺美保子
写真/鈴木愛子
昔ながらの湯治場の雰囲気
鳥取県のほぼ中央に位置する三朝温泉。平安時代(1164年)開湯と伝わり、三朝の名は「三泊して三度朝を迎えれば万病が治る」ことに由来するともいわれる。世界有数のラドン含有量を誇るラジウム温泉で、かのキュリー夫人のラジウム発見以降、一躍有名になった。今も多くの人が温泉療養に訪れる。
「飲むことができて、吸っても効果がありますよ」と三朝温泉観光協会の御舩(みふね)豊さん(54)。御舩さんは、ラジウム温泉の入浴アドバイザー「ラヂムリエ」でもある。温泉街に80人ほどいるそうだ。案内されたのは、中心部の温泉本通りにある足湯・飲泉「薬師の湯」。湯は無色透明で、口に含むとクセがなくまろやか。足湯は4カ所あり、開湯伝説が残る源泉の「株湯」をはじめ、気軽に立ち寄れる公衆浴場がある。川沿いの名物「河原(かわら)風呂」は、囲いはほとんどなく開放的。三朝神社ではなんと手水も温泉だ。そのまま通りを進むと、江戸時代から続く湯治宿や土産物屋、駄菓子屋も並ぶ。老舗酒蔵で地酒を試飲し、名物とちもちの素朴な甘さを味わいつつ、のんびりと散策した。店舗や旅館に設けられた「湯の街ギャラリー」が18カ所ほどあり、彫刻作品などが並ぶ。のぞいてみるのも楽しい。
日が暮れ、宿に戻り日本海の幸が並ぶ夕食を堪能してから、浴衣姿のまま向かったのは、昭和36年開業の「泉娯楽場」。レトロ感あふれる店内には、射的や手打ちパチンコなどがずらり。つい夢中になった。帰路、やわらかい灯りのもと、川のせせらぎと下駄の音が心地よく響く。少し熱めの優しいお湯は、体を芯までほぐすようで、気持ちよく眠りについた。
温泉街から車で15分ほど行くと、国宝「投入堂(なげいれどう)」で知られる、開山1300年以上の三徳山三佛寺がある。お堂は、本堂から約700メートル、標高差約200メートルの中腹に位置し、険しい岩肌をつたい進む道中は息が切れるが、断崖絶壁に建つ神秘的な姿に思わず息を飲む。隣の倉吉市では、江戸〜明治期の美しい白壁土蔵群が人気。ぜひ足をのばしたい。
山海の味覚にあふれた鳥取
日本海に面し、山々に囲まれた鳥取県は、山海の味覚の宝庫だ。おいしさの秘密はなんといっても「水」。西日本最大級のブナの森があり、自然に濾過(ろか)されたミネラルたっぷりの水が農作物や海の恵みを育んでいる。
鳥取空港にほど近い市場「かろいち」を訪ねた。目の前の鳥取港で水揚げされた新鮮な魚介がならび、観光客だけでなく、地元の人々も訪れる人気スポットだ。秋はハマチやサワラに脂がのる時期。冬の味覚の代表・松葉がには、11月上旬から漁が解禁される。アカガレイやハタハタ、県外にはほとんど出回らないというモサエビもおいしい。隣接する地場産品販売所「わったいな」では、野菜や特産品がそろい、ともにおみやげ選びにも最適だ。
三朝温泉
1164年、三徳山参拝に訪れた源義朝の家来が、古木の根元から発見したと伝わる。高濃度のラドン(ラジウムが分解されて生じる弱い放射能)を含み、自然治癒力を高める効能が。岡山大学病院三朝医療センターでは、三朝温泉旅館宿泊者限定で、温泉療法「鉱泥湿布」が無料体験できる(来年3月24日まで)。公衆浴場「たまわりの湯」では、温泉の熱を利用した「ラドン熱気浴」も。1000円。(TEL0858・43・0017)。
三朝温泉観光協会・三朝温泉旅館協同組合(TEL0858・43・0431、http://spa-misasa.jp)
三徳山三佛寺投入堂 倉吉・白壁土蔵群 鳥取・賀露港海鮮市場 かろいち 地場産プラザ わったいな |
アンテナショップがグランドオープン
とっとり・おかやま新橋館
先月、鳥取県・岡山県共同のアンテナショップが、新橋駅前にオープン。愛称は「ももてなし」。1階は両県の名産品がそろう物産販売店で、生鮮食品も充実。2階は地酒や県産食材を使った料理などが味わえる飲食店のほか、観光案内、移住相談窓口なども。
東京都港区新橋1-11-7新橋センタープレイスビル1・2階(TEL03・3571・0092)。1階 物販午前10時〜午後10時、2階 飲食午前11時〜午後11時。 http://www.torioka.com/
ラードン麺
温泉に含まれるラドンにかけたネーミング。温泉でゆでた麺に、とんこつしょうゆベースのタレをかけた汁なしラーメン。約5店舗で提供。約500円と手頃で、トッピングは豚肉やネギ、メンマなど店によって異なる。