修善寺温泉は、平安時代に弘法大師空海が開いた伊豆最古の温泉といわれます。明治時代から作家や画家らが療養や旅行で訪れた温泉街を歩きました。
取材・文/土田ゆかり
撮影/篠塚ようこ
文豪ゆかりの温泉街
山に囲まれた修善寺温泉街には、明治以降、夏目漱石や画家の安田靫彦ら文人墨客が療養や旅行で長期滞在した。俗世間から離れた地で、文学や絵画に詳しい旅館の主人とシカ狩りをしたり、談義をしたりして交流を楽しんだという。修善寺郷土資料館の田中之博さん(59)は、「熱海のさらに奥にある温泉地は、桃源郷のような場所だったのではないでしょうか」と話す。
滞在中に、物語の構想を得た作家もいた。劇作家の岡本綺堂は、修禅寺に幽閉されていた源頼家と、かつらの悲恋物語を歌舞伎の演目「修禅寺物語」にまとめ上げ、修善寺の名を広く知らしめた。
芥川も「一見の価値あり」
岡本が滞在した新井旅館は、1872(明治5年)創業。国の登録有形文化財がある温泉街唯一の宿で、指定されているのは棟など15。ガイド付きのツアーもある。印象的なのは、太いヒノキの柱が立つ「天平(てんぴょう)風呂」。外の池が建物に接していて、湯船につかりながらガラス越しに魚が泳ぐ姿を鑑賞できる。エメラルドグリーン色の水にゆらめく光が幻想的だ。宿泊した芥川龍之介は、「水族館みたいだ」「一見の価値あり」と、イラストを交えて家族に手紙を出したという。見学後は喫茶室でお茶とお菓子でくつろぎ、当時の文化人たちの気分を味わった。
次は約1時間半の散策コースへ。文豪たちも聞いたであろう川のせせらぎが耳に心地よかった。五つの橋は「縁結びの橋」だという。看板には「願いをかけながら渡ると恋が成就する」とあった。
温泉街から坂道をあがると丘いっぱいの梅林が広がる。今年の梅まつりは3月10日まで。文豪たちが愛した桃源郷に梅の香りが漂う。
新井旅館 修善寺梅林 |
湯で清める
弘法大師空海が開祖で、1200年以上の歴史がある修禅寺。手水舎(ちょうずや)では源泉かけ流しの温泉水が流れ出ていて、飲むこともできる。
DATA
静岡県伊豆市修善寺964。
問い合わせは修禅寺
(TEL0558・72・0053)
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