都会に出現した巨大なビニールハウス? 実はランニング施設。なぜ、こんな形をしているの?
東京五輪・パラリンピックの競技場や選手村に囲まれ、再開発が進む東京・豊洲。林立する高層ビルを背に、広大な更地に置かれたかまぼこ形の施設が存在感を放つ。長さ108×幅16・27×高さ8・5メートルの陸上練習場だ。吹き抜けの内部に60メートルの陸上トラックがのびる。
「トンネル形状は工期が短くて済みます。この施設は半年ほどで完成しました」と設計者の武松幸治さん(56)。外面には、フッ素樹脂の一種で透明なフィルム状の素材「ETFE」を使用。軽くて耐久性がある。「重ねたフィルムの内部を空気で膨らませています。雪が降るとセンサーが感知して内圧を上げ、強度を高めます」。自然採光が可能で、室温上昇を抑えるために、水玉柄をプリントして光の透過率を調整した
「アーチを駆け抜ける感覚は新鮮」。元陸上選手で同施設館長の為末大さん(41)が話す。施設は、為末さんら有識者による豊洲の未来構想を元に建てられた。「誰もが一緒にスポーツを楽しんでいる風景があるといいねと」。競技用義足の研究所が併設され、バリアフリー設計。義足ユーザーと健常者、オリンピアンが横並びで練習する。
「僕は広島生まれ。平和教育を受ける中で、立場の違いで物の見方に差や偏見が生まれることに興味を持ったんです」。壁を取り払う方法を考えてきた。為末さんが続ける。「いつかこの施設が特別ではなくなるといいなと思います」
(中村さやか)
DATA 設計:武松幸治+E.P.A環境変換装置建築研究所 《最寄り駅》 市場前駅 |
市場前駅から徒歩1分、1月に江戸前場下町(問い合わせは03・6204・2533)がオープン。豊洲市場の海鮮などが味わえる飲食店や、日本ならではの食材や道具を扱う土産店が並ぶ。