空っぽの棚がそびえ立つ。実は外壁も内壁も全て本棚でできた図書館。これから本を入れていくの?
玉川上水が流れる雑木林沿い。武蔵野美術大学鷹の台キャンパスの正門から入り、木立を抜けると、桜の木に囲まれたガラス張りの建物が現れる。壁一面が空の本棚。中に入ると、1、2階を貫き、天井まで続く8メートルほどの本棚が幾重にも広がった。隣接する美術館と2階通路でつながり、壁全部が木製の本棚でできた図書館だ。
設計者は建築家の藤本壮介さん(48)。「ヨーロッパなどの古い図書館は、部屋の壁一面が本棚ですが、僕は本に囲まれた世界が無限に広がっていく空間を作りたかった」と話す。「書物の森」をイメージし、森を散策するように思いもよらない本と出会ってほしいと、2階の書架を渦巻き状に配置。分野別に分類された本を放射状に並べた。おもしろいのは、本棚のあちこちに開いた幅約4~7メートルの窓や門のような穴。重なり合う本棚が見えて、まるで迷路のようだ。迷いそうになると、本棚に設置された本の分類を示す数字のサインが現在地を教えてくれる。グラフィックデザイナーの佐藤卓さん(64)によるサインは、それ自体が魅力的なアート作品だ。
「迷ってしまう学生も多いけれど、慣れると自分流の使い方ができるようになります」と同大学職員の古賀祐馬さん(36)。手の届く6、7段目までに本を置き、その上などは空き棚。永遠に埋まらない空の本棚に、無限に広がる可能性を託したという。
(上江洲仁美)
DATA 設計:藤本壮介建築設計事務所 《最寄り駅》 鷹の台 |
武蔵野美術大学から徒歩2分のカフェ いずん堂(問い合わせは042・315・1106)。地元の旬の野菜を使用した「キッシュ」(950円)や「パスタ」(850円)がおすすめ。小学生以下入店不可。原則第1・3・5(月)、(火)休み。