町に開けた心地よい「家」
リズミカルな、真っ白な屋根と壁の連続が印象的だ。五角形のトンネルのような建物は、上から見るとL字形をしている。正面からは平屋のように見えるが、中に入ると意外に天井は高い。
住宅街に立つ、皮膚科の診療所。院長の田邊惠美子さん(70)の娘、曜さん(40)が設計した。以前は、曜さんの祖母が開く日本舞踊教室があった。「地域に開けた、高齢者も集まる場を作りたい」という祖母の希望を出発点に計画は始まった。
バリアフリーにするため、診察室と待合スペースはワンフロアに。L字形の敷地をめいっぱい使い室内の空間を広く取った。一方、エントランスから見た圧迫感を減らすため、屋根の高さは入り口のほうを低くしてある。
曜さんは「診療所ではあるけれど、地域の家のような、リラックスできる場所を作りたかった」と振り返る。近接した隣家に面する窓は配置せず、前後の五角形どうしがズレた部分に開口部を作ることで、外からの視線を遮りながら、内外が連続する空間を作り出した。ズレのために室内は角や凹凸が多く、大勢の人と顔を合わせない待合スペースは居心地がよい。縦長の窓からの日差し、ガラスを伝う雨粒、四季折々の表情をのぞかせる木々。くつろいで、うたた寝する患者もいるという。
祖母の思いを注ぎ込んだ空間を、これからも多くの人が行き交うだろう。
(渋谷唯子)
DATA 設計:田邊曜建築設計事務所 《最寄り駅》 千葉駅からバス |
車で5分の場所に千葉県立中央博物館(問い合わせは043・265・3111)がある。常設展は「房総の自然と人間」がテーマ。隣接する生態園では動植物を身近に観察できる。現在は臨時休館しているが、HPで「おうちで中央博」を公開中。http://www2.chiba-muse.or.jp/www/NATURAL/index.html