外壁のあちこちを鋭く切り裂くくさび形。その隙間から人が出たり入ったり。いったい入り口はどこ?
両国国技館から徒歩で約10分。
北斎通りに面した公園に、子どもたちの遊ぶ声が響き、夕暮れには買い物や仕事帰りの人々が行き交う。
その地続きに立つすみだ北斎美術館は、むだのない形状、メタリックな外壁を鋭いナイフで切り取ったようなスリット(すき間)が印象的だ。
館は、この界隈で生まれ、生涯の大半を過ごしたとされる浮世絵師・葛飾北斎とその一門の作品を所蔵・展示する。
建築のノーベル賞と呼ばれるプリツカー建築賞を受賞した妹島和世さん(63)が設計した。
「あまり威圧感のある建物にしたくなかったんです」と妹島さんは説明する。
くさび形のスリットでゆるやかに建物を分割し、ビル、商店、住宅など大小の建物が混在する町との調和を図った。
また、色々な方向からアクセスできる立地であることも考慮した。
スリットは自由に通り抜けられる外部通路で、どの方向から来ても入館できる。
研磨処理を施したアルミパネルの外壁には周囲の風景が柔らかく映り込む。
「北斎が多くの時間を過ごした町が、絵のように見えればいいなと」
建物には美術館以外にも北斎に関連した講座室や図書室が入る。妹島さんは「日本で一番有名なアーティストの美術館でありながら、活発に交流する地域の場ともなっている珍しい館です」と話す。
北斎通りまちづくりの会会員で、この地で生まれ育った岸成行さん(64)は1級建築士でもある。
「形は斬新だけど、ものづくりの町にもなじんで、懐かしさも感じます」と話した。
(小森風美)
DATA 設計:妹島和世建築設計事務所 《最寄り駅》 両国 |
美術館から130メートルのORI TOKYOカフェ(問い合わせは03・5637・8984)では、夏季限定のかき氷(1280円)が楽しめる。北斎の浮世絵をモチーフにした織物も販売。午前10時~午後6時。(月)と第1、第3(火)休み。