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ラ コリーナ近江八幡(滋賀県近江八幡市)

力合わせ作った まるごと「丘」

駐車場から生け垣をくぐると草屋根が姿を現す。後ろは八幡山
駐車場から生け垣をくぐると草屋根が姿を現す。後ろは八幡山
駐車場から生け垣をくぐると草屋根が姿を現す。後ろは八幡山 草屋根の天井。不ぞろいな炭片の大きさや密度がグラデーションを生む

芝生で覆われた屋根に、木が生えている!? 緑たっぷりの人気スポットは、奇抜で、どこか懐かしい

 「早く早くー!」。子どもが駆け出した。琵琶湖岸の八幡山(272メートル)のふもとに広がる、菓子製造販売の老舗たねやグループの拠点。ラ コリーナは伊語で丘の意味だ。約12万平方メートルの敷地に点在する建物や豊かな自然、スイーツをめあてに多くの人が訪れる。
 
 メインの店舗「草屋根」は、名前の通り芝で覆われた屋根に松の木が生える。自宅の「タンポポハウス」など植物を採り入れた建築を長年実践する藤森照信さん(73)が設計した。まるごと丘のようだが、奥行きがある軒下や、屋根に並ぶ窓など生活感が漂う「自然と人工物との接点」も作った。
 
 藤森さんは草屋根で昨年度の日本芸術院賞に選ばれた。が、自身が「集大成」という構想を実現したのは一つの建物にとどまらない。草屋根や本社屋の「銅屋根」、店舗「栗百本」などが取り囲むのは、水田。地域総出の農作業、傍らで遊ぶ子どもたち……藤森さんの理想の風景が土台にある。

 建材にする栗の木は、たねやの社員とともに長野の山中へ「狩り」に出かけた。土壁塗り、草屋根のしっくい天井に装飾の炭片を埋め込む作業、銅屋根を葺く銅板を3~4センチ幅の波形に折る作業も社員や、時には学生をまじえた数十人とともに手作業で行った。藤森さんは共同作業の狙いを一言、「楽しいからだよ」。常務の山本寛之さん(37)は、「不ぞろいが魅力と藤森さんは自由にやらせてくれた。土壁の補修や草屋根の管理も自分たちでやっています」。

(山田愛、写真も)

 DATA

  設計:藤森照信+アキムラ フライング・シー、中谷弘志
  用途:店舗、本社屋
  完成:2015年1月~16年7月

 《最寄り駅》 近江八幡


建モノがたり

 八幡山には近江商人の信奉を集めてきた日牟禮八幡宮がある。3月の左義長まつり、4月の八幡まつりと二つの火祭りが行われる。神社の脇からは、琵琶湖を見渡せる山頂までのロープウェーも。問い合わせは近江八幡駅北口観光案内所(0748・33・6061)。

(2020年8月11日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)