巨大なロボットにも昆虫にも見える。空へ向かって伸びるポールや銀色の球体の正体は?
オフィスや集合住宅、商店が混在する中で、強烈なインパクトを放つ。国際コンペで1位に選ばれた渡辺誠さんが生み出した、奇抜に見える造形の一つ一つは、装飾ではなかった。
コンペで要求された教室群など以外に、セミナーやプレゼンテーションに使う多目的スペースを提案した。学校には機能が定まっていない空間もほしいとの思いからだ。路地状の敷地は余裕がなく、法規制も厳しい。かろうじて最上階に細長い空間を確保したが、構造上外部から支えるしかなかった。そのために出現したのが、巨大な機械部品のような3本の丸柱だ。
銀色に光る回転楕円体は、大容量の高架水槽。昆虫の触角のように見えるのは、約40のパーツで構成された避雷針。どれも必要とされる機能から構築され、「勢い」を自由に伸ばしていった結果だという。全体像は決めていなかったが、バランスは自然と整った。実は当初から渡辺さんが目指したことだった。
ヒントは建物が立地する渋谷の街にあった。整然と計画されたわけではなく、雑多で無秩序に見える。それでも活気があるのは、何か全体を調和させる仕組みが隠れているのではないか。そんな「都市の生態系」を見いだすための思考モデルだったのだ。
2003年には大規模な補修工事が行われ、完成後30年が経つ今も、金属部分は輝き、生命体をイメージした赤色も鮮やかだ。渡辺さんは、これからも多くの人に愛され、末永く大切にされることを願っている。
(陣代雅子)
DATA 設計:渡辺誠/アーキテクツオフィス 《最寄り駅》 渋谷 |
約40メートルの距離にあるかつお食堂(問い合わせは03・6877・5324)は、削りたてのかつお節をたっぷりのせたご飯を中心にした定食「かつお食堂ごはん」(1100円)が人気。午前8時半~午後2時、6時~9時半(ラストオーダーは30分前)。不定休。