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風の万華鏡(大阪市北区)

空へ向けビルを貫く遊び心

「強い風はまるで石のように硬くなる」(新宮さん)ため、外のオブジェには風を逃がす穴を開けた=留岡出氏撮影
「強い風はまるで石のように硬くなる」(新宮さん)ため、外のオブジェには風を逃がす穴を開けた=留岡出氏撮影
「強い風はまるで石のように硬くなる」(新宮さん)ため、外のオブジェには風を逃がす穴を開けた=留岡出氏撮影 らせん階段が取り巻く吹き抜けのオブジェは、防災上の工夫で耐火布を使用=中村さやか撮影

建物の上部に突き出た、動くオブジェ。何のビル? どんなイメージが込められている?

 青い空を背景に、銀色のオブジェが、ゆったりと回転する。風と遊ぶように、縦にも横にも自由自在に。

 大川右岸、戦前まで天満青物市場があった場所にある企画制作会社「ブレーンセンター」本社ビル。三角形で構成されたオブジェは屋上に3個見えるが、中心の軸はビル内部の吹き抜けを1階まで貫き、計8個のオブジェが垂直に並ぶ。建物内のオブジェは上昇気流によって動く。

 稲田紀男社長(70)は社屋建設の際、「自立自営」の精神をシンボル化したいと、風や水で動く野外彫刻で知られる新宮晋さん(83)にビル全体の設計を依頼。建物と一体化した「彫刻」が誕生した。

 「同じような輪郭の建物が並ぶ中、動くオブジェで、都会のスカイラインを柔らかくしたかった」と新宮さんは話す。一番下のオブジェは差し渡し50センチ、上にいくほど大きくし、一番上は5・6メートル。ドレミファ……と空に向けて音階を放つイメージを重ねた。吹き抜けの最下部には上向きに凹面鏡を設置、八つのオブジェが全て映り込む。「風の万華鏡」の完成だ。

 最初にデザイン案を見た時、発想力に「度肝を抜かれた」と振り返る稲田社長は、「風を視覚的に捉えられると、心でも風を感じられる。自然のリズムにのびのびとした気持ちになれる」。建設から28年が経ったが、今も日々、気づきがあるという。絶えず変化し続ける凹面鏡の中の景色に、鴨長明の随筆「方丈記」の一節を思い、自らを省みたと話す。「まあ、ざれ言です」。そう付け加えて、目を細めた。

(中村さやか)

 DATA

  設計:新宮晋、尾形建築事務所

  階数:地上6階
  用途:オフィス
  完成:1992年4月

 《最寄り駅》 天満橋


建モノがたり

 徒歩2分の場所にあるインテリア雑貨店?dieci天神橋店(問い合わせは06・6882・7828)は、国内外の作家によるオブジェや食器などが季節ごとに並ぶ。併設のカフェでは展示会とのコラボメニューも。(火)休み。

(2020年12月15日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)