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茅ケ崎市美術館(神奈川県茅ケ崎市)

軽やかな翼は湘南のかたち

宙に浮かぶような屋根が青空に映える。原則(月)休み、9~12日は臨時休館。2階のカフェは当面の間休業
宙に浮かぶような屋根が青空に映える。原則(月)休み、9~12日は臨時休館。2階のカフェは当面の間休業
宙に浮かぶような屋根が青空に映える。原則(月)休み、9~12日は臨時休館。2階のカフェは当面の間休業 1階ホールからは敷地内の豊かな緑が見晴らせる=洋建築企画提供/©樽井洋治

古くから著名人も住んだ住宅地。羽を広げた鳥のようにも波のようにも見える屋根は何?

 海に近い住宅地の一角。茅ケ崎市美術館がある「高砂緑地」は明治期に新劇俳優・川上音二郎が自宅を構え、その後は実業家・原安三郎の邸宅になった。木立の間をぬう小道は市民の散策の場だ。

 洋館だった旧原邸の南欧風の塀づたいに歩くと現れる、モダンな建物。弧を描くように張りだし全面ガラス張りの正面と、鳥が翼を広げたような屋根が特徴だ。

 「羽でも波でもよいのですが、飛翔するような空間を意識した」。コンペで選ばれ、設計を担当した山口洋一郎さん(74)は話す。同時期に関わった建物のいくつかでも採用した屋根で、「私が思う湘南茅ケ崎のひとつのかたちです」。

 山口さんの事務所は目と鼻の先にある。茅ケ崎で育ち、周辺の公共施設や住宅を多く手がけてきた。そんな山口さんが大切にする茅ケ崎のイメージとは「東京の濃密な空間から離れ、穏やかな気候、豊かな自然。のんびりして軽やか」。外壁のれんがタイルは海と砂を意識したブルーグレーだ。

 こぢんまりした館内には三つの展示室、イベントスペース、マツなどの枝越しに眺めを楽しめるカフェ。「ふらりと立ち寄って美術やお茶を楽しめる空間にしたくて、それは成功したと思います」と山口さん。美術館の広報担当者も「鳥のさえずりを聞きながら、こころ穏やかに過ごせます」と話す。

 館へのアプローチはバリアフリーを念頭に、緩やかにカーブする上り坂。幅2メートルほどのため、館に出入りする人は自然と会釈を交わす。これは意図しないことだったという。

(隈部恵)

 DATA

  設計:洋建築企画

  階数:地上2階、地下1階
  用途:美術館
  完成:1997年9月

 《最寄り駅》 茅ケ崎


建モノがたり

 徒歩5分、「雄三通り」沿いのFLOWER COFFEE / BREW BAR(問い合わせは0467・37・6618)は、豪シドニーや福岡のロースターの豆を使用したスペシャルティコーヒーのスタンド。ハンドドリップ580円など。午前10時~午後7時。休店日はウェブサイトで案内。

茅ケ崎市美術館

http://www.chigasaki-museum.jp/

(2021年2月9日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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