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勝浦市芸術文化交流センター・キュステ(千葉県勝浦市)

ワザありの柱 れんが再発見

2階から見える海の景色が隠れないように、一部の柱でれんがのひねりの角度を調整している
2階から見える海の景色が隠れないように、一部の柱でれんがのひねりの角度を調整している
2階から見える海の景色が隠れないように、一部の柱でれんがのひねりの角度を調整している 2階テラス。床に伸びる影やれんがの陰影は季節や時刻によって異なる雰囲気をつくる

柱状に積んだ、れんがの装飾。れんがは海辺の町に適した建材とか。でもなぜこの形に?

 房総半島の南東部、潮の香りが満ちる漁師町。ホールや集会室のある施設の愛称キュステは「海岸」を意味するドイツ語だ。ガラス張りの1階が海に、その上のれんが製の装飾が砂浜に見えると、公募で名付けられた。

 れんがをらせん状に積み重ねた柱がテラスを取り巻く。外房の明るい日差しを受けて幾何学的な影を作るかと思えば、別の角度からは生命感のあるダイナミックなうねりをみせる。「建物内にも時間の経過とともに、柱の影がとても面白い景色を生むんです」とセンターの忍足篤所長(47)は話す。れんがの柱は直射日光や強い潮風もさえぎってくれるという。

 設計者の山下設計・安田俊也さん(61)は、耐久性がありさびる心配もないれんがは、海辺の町に適していると説明する。一方で建築物に使われてきた歴史が長いため、「古い記憶や意味を背負っている」側面もある。現代建築としての使い方が課題だった。

 安田さんが受けた現地の印象は「海のきらめきや日差しといった、光が美しい場所」。その中でふと思いついたのが、光を受け止めるこの柱だ。中央に穴を開けたれんがを金属棒に通しながら手積みした。柱は建物内外合わせて約700本、使われたれんがは約3万2千個になる。これまでにないれんがの表情に、安田さんは「壁面に使うだけではない、新しい可能性が見えました」。

 昼下がりの館内、学生らしい人が柔らかい日差しの中で、ノートを広げていた。背にした窓からは、れんがの柱の間に海がのぞいていた。

(中村さやか、写真も)

 DATA

  設計:山下設計

  階数:地上3階
  用途:文化施設
  完成:2014年11月

 《最寄り》 勝浦駅から車


建モノがたり

 勝浦市の中心部で水曜と元日を除く毎朝開かれている勝浦朝市。日本三大朝市に数えられ、始まりは1591年にさかのぼるという。干物や野菜、雑貨のほか、丸々1本の初ガツオなどが並ぶ日も。午前6時半~11時ごろ。

(2021年2月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)