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カトリック宝塚教会(兵庫県宝塚市)

岸に着いた鯨 人に寄り添う

一般の見学も可。ミサなどにより不可の場合もあるので、要事前連絡(問い合わせは0797・72・4628)
一般の見学も可。ミサなどにより不可の場合もあるので、要事前連絡(問い合わせは0797・72・4628)
一般の見学も可。ミサなどにより不可の場合もあるので、要事前連絡(問い合わせは0797・72・4628) 春分の日あたりの日没時、南(右側)のスリット状の窓からは、まっすぐに差し込む西日が祭壇に集まるという

宝塚大劇場から約1キロの住宅地。天を指す塔、鯨のような屋根が印象的な建物の正体は?

 「大洋を漂いつづけていた白鯨がようやく安住の地をみつけ岸辺に打寄(うちよ)せられた」。

 カトリック宝塚教会の完成に際し、設計者で日本を代表する建築家・村野藤吾(1891~1984)はそんな言葉を寄せた。

 上から見て三角形の建物は、鋭角部分に高さ22・5メートルの尖塔(せんとう)が立つ。

 優美な曲線を描く銅板ぶきの屋根が鯨の背、尖塔が尾。「白鯨の聖堂」としてすっかり定着しているが、最初から鯨をイメージしたわけではないと孫の朋子さん(55)は話す。

 残されたスケッチに描かれたのはハイヒールのかかとや馬の首の曲線。

 「思索やスケッチを重ねる中で建物を巡る物語が深まり、それが祖父の『建築』になっていると感じます」

 設計から完成まで4年。「ようやくできたという気持ちが、漂着した鯨と結びついたのでしょう」

 外壁の接地部分は木の根元のように地面に向けて緩くカーブ。中に入ると、小幅の板を張った曲面の天井が鯨の口の中を思わせる。

 村野亡き後に約10年間事務所に所属し、村野建築のガイドも務める佐藤健治さん(53)によると、村野の根幹には自分がつくる建物が自然や人を傷つけるのではないかという、キリスト教でいう「原罪意識」があるという。そのため人を圧倒するような荘厳さではなく、環境に寄り添う有機的な形を大切にしたと分析する。

 図面で表すのが難しい形を実現するため、村野は毎日現場に足を運び職人に細かく指示を出したという。

 信徒の一人によると、「滑らかな天井、祭壇に向かって狭まる空間。気持ちが落ち着き、祈りの場である教会にふさわしい空間です」。

 教会は地域の信徒約1千人のよりどころとなっている。


(小森風美、写真も)

 DATA

  設計:村野、森建築事務所
  階数:地上2階
  用途:教会
  完成:1965年

 《最寄り駅》 宝塚南口


建モノがたり

 宝塚南口駅から徒歩1分のフランス菓子店、パティスリー ベルクルール(問い合わせは0797・61・6890)では焼き菓子、生菓子が楽しめる。人気はシューアラクレーム(税別270円)や(土)(日)(祝)限定のミルフォイユ(同500円)。カフェスペース8席。午前11時~午後6時。第2・第4(火)、(水)、8月29日~9月3日休み。

(2021年7月20日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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