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とらや 赤坂店(東京都港区)

低層に転換 老舗の不易流行

屋根は瓦を思わせるチタン製。窓からは赤坂御用地の木立が見渡せる。物販:午前9時~午後6時(土日祝は9時半から)、喫茶:11時~5時半ラストオーダー(土日祝は5時まで)。12月を除く毎月6日休み=斉藤由夏撮影
屋根は瓦を思わせるチタン製。窓からは赤坂御用地の木立が見渡せる。物販:午前9時~午後6時(土日祝は9時半から)、喫茶:11時~5時半ラストオーダー(土日祝は5時まで)。12月を除く毎月6日休み=斉藤由夏撮影
屋根は瓦を思わせるチタン製。窓からは赤坂御用地の木立が見渡せる。物販:午前9時~午後6時(土日祝は9時半から)、喫茶:11時~5時半ラストオーダー(土日祝は5時まで)。12月を除く毎月6日休み=斉藤由夏撮影 旧赤坂店から引き継いだ虎屋のしるし「鐶虎(かんとら)」を配した黒しっくいの磨き壁

ビルが並ぶ青山通り沿い。傘を広げたような屋根、ガラス張りの建物の中はどんな空間?

 室町時代後期創業の和菓子店がここに9階建てビルを建てたのは、前回東京五輪の1964年。約半世紀後の建て替えにあたり当初は10階建てを検討していたが、方向転換した。黒川光博社長(77)=現会長=らは、「これからの時代、大きな建物じゃないのでは」と考えたのだ。

 設計した内藤廣(ひろし)さん(71)は、「一等地の容積をあえていっぱいに使わず、自分たちの姿勢を表現する姿に共感した」と話す。黒川さんとは15年ほどの付き合いがあった。「お人柄に接して、簡素にして高雅、という建築コンセプトが自然と浮かんだ」

 プランを練っていたある日、初夏に3日間だけ販売される和菓子「更衣(こうい)」が事務所に届いた。飾り気のない、直径5×高さ2センチほどの円筒形の生菓子。その味と食感に「陰影のある奥行き」を感じ、「何割かでも建築に写し込めたら」と思った。

 思いの表れの一つが、本物の素材へのこだわりだ。内装には吉野のヒノキをふんだんに使用。外観が印象的な屋根の内側にあたる勾配天井は、1メートルおきに渡した鉄骨に交差するように、ヒノキの小幅板が張り巡らされていて目を引く。

 2階売り場の黒しっくいの磨き壁は「左官のカリスマ」久住(くすみ)章さん(73)に依頼した。経験のない大きさのためコテを特注し、職人は20人がかり。塗った厚さが少しでも違うと均質に仕上がらず、久住さんが納得いくまで5回はやり直した。

 店内の手すりが何かに似ていると気づく人もいるかもしれない。角を丸めた曲線(アール)は、代表的なようかん「夜の梅」の四隅と同じ。内藤さんはこれを「ようかんアール」と命名、地下ギャラリーの壁など建物の随所で使われている。

 建て替え前のビルは付近のランドマークだっただけに惜しむ声も多かった。「時々振り返るのも必要だが、今と未来が大事。『不易流行』の姿を勉強させてもらった気がします」


(斉藤由夏)

 DATA

  設計:内藤廣建築設計事務所
  階数:地下1階、地上4階
  用途:ギャラリー、店舗、喫茶
  完成:2018年

 《最寄り駅》 赤坂見附


建モノがたり

 青山通りをはさんで徒歩2分、豊川稲荷東京別院(問い合わせは03・3408・3414)は「豊川閣妙嚴寺」が正式名の曹洞宗の寺院。商売繁盛、家内安全、福徳開運を願う参拝客の姿が絶えない。境内には七福神がまつられており「七福神めぐり」もできる。電話受け付けは午前8時半~午後4時。

(2021年8月31日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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