駅前の一角に、コンクリートと芝生の斜面がうねる。道路が屋根になったような、この建物は何?
機械、繊維メーカーが集まり「ものづくりのまち」として発展してきた石川県小松市。「サイエンスヒルズこまつ」は建機大手コマツの工場跡地の一部に市が建てた施設だ。将来を担う人材育成を目指し、科学館や起業者向けの貸しオフィスなどが入る。
隣にはすでにコマツが整備した、公園のような機能を持つ施設があった。建築家の伊藤麻理さん(46)は「せっかくなら、ここも公園なら住民はうれしいのでは」と考えた。「公園の下にたまたま空間があるような、風景と融合する建築」を目指した。
Yの字を二つ横に並べたような複雑な平面図の建物に、湾曲した屋根がのる。縦4列に並んだ屋根の波形はみな違い、頂点もずらしてあるため、中庭や通路からはガラス越しに施設内のあちこちの様子をうかがえる。
屋上は外階段から上って、アップダウンのある通路を歩ける。最も高い所で地上から6メートル。単純な波形ではない「3次元的なねじれ」で、本当の丘のような起伏を表現した。雨が降ると屋根全体が雨どいになって接地部分へ水が流れ落ち、訪れた子どもたちが面白がるという。
屋上には特殊なセンサーも設置されている。風向きと風速を検知し、暗くなると130個の庭園灯が流れるように点灯する。科学を体験的に知ってもらうための「しかけ」の一つで、ほかにも敷地内には目の錯覚でボールが跳ねているように見えたり、偏光板を通して窓を見ると絵が現れたり、約30のしかけがある。
こうしたしかけに、説明はつけていない。科学館サイエンスコーディネーターの久保有紀子さん(47)は「自分で探して、自分で見つけて、驚いてほしい」と話す。
(伊藤めぐみ、写真も)
DATA 設計:元倉眞琴/スタジオ建築計画+伊藤麻理/UAO 《最寄り駅》 小松 |
徒歩8分のこまつ曳山交流館みよっさ(問い合わせは0761・23・3413)では、春の風物詩「お旅まつり」の曳山を2基展示。曳山を舞台にした「子供歌舞伎」など祭りの映像も公開している。「みよっさ」は地元の方言で「~してみようよ」という意味。午前10時~午後5時。無料。4~11月は無休、12~3月は原則(水)休み。9月12日まで見学は小松市民に限っている。