都営地下鉄国立競技場駅出入り口と高架の首都高速の間にある、地面から浮いているようなコンクリートの箱。これは何? 何で浮いているの?
滑らかな外壁には飾りも凹凸もない。控えめな案内板でようやくトイレとわかる。
中に入ると、高耐久化木材のアコヤ材を使った個室の壁やドア、黄金色に光る真鍮(しんちゅう)の標識が高級ホテルのトイレのよう。宙に浮いているように見えたのは、外壁と地面の間に50センチのすき間があるから。すき間と頭上の天窓から自然光が入る。
「公衆トイレって薄暗くて閉鎖的なイメージ。個室以外はもっと風通しよく、明るくてもいいんじゃないかと」。設計したSUPPOSE DESIGN OFFICE共同主宰の吉田愛さん(47)は話す。
もとは築40年以上の公衆トイレがあったが、東京五輪に向けて渋谷区がリニューアルを計画。区内にも事務所がある吉田さんらは、国立競技場のすぐそばの計画に興味を持ちプロポーザル(提案型の設計者選定)に参加した。
空間を縦に大きく広げるため、天井の高さは約6メートル、建物は7・5メートルと通常の2階分。外壁を地面から浮かせて外部からは中が、中からは外部の気配が伝わり、安心感を与える。全体の構造は、屋根と壁の「傘」を2本の太い柱が支えている。
「見る人を良い意味で裏切りたい」と言うのは、共同主宰の谷尻誠さん(47)。重いコンクリート壁が浮遊している、閉じた場所と思われるトイレに開放感がある。「矛盾が快適になる。そういう感動体験を設計したい」
五輪・パラリンピックが無観客開催となり、競技場周辺には当初の予想と違う日々が過ぎた。それでも入りたくなる、きれいに使いたくなる、見に行きたくなるトイレはレガシーとして確かに残った。
(小松麻美、写真も)
DATA 設計:SUPPOSE DESIGN OFFICE 《最寄り駅》 国立競技場 |
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