島根県中部、日本海沿いの国道9号をひた走ると現れるピラミッド群。なぜここに? 中には何が?
古代エジプトで王をまつったピラミッド。仁摩サンドミュージアムは、1㌧の砂が1年かけて落ちながら時を刻む砂時計「砂暦」のために建てられた。
話はバブル期の「ふるさと創生1億円」事業に始まる。過疎・高齢化が進んでいた旧仁摩町の泉道夫町長(2010年死去)は、交付金を使って鳴き砂で知られる町内の琴ケ浜の砂に着想を得て、世界一の砂時計を作ることを思いついた。
収める建物はピラミッド形と決めたが、ピンとくるデザインにならない。町出身の建築家・高松伸さんに白羽の矢を立て、アポもなしで自ら京都の事務所を訪問した。
注目の若手建築家として多忙を極めていた高松さんは最初、断るつもりでいた。が、泉さんの町おこしへの熱意に心を動かされ、「気がついたら承諾していた」。
すぐにエジプトに飛び、朝から日暮れまでピラミッドに向き合ったが、アイデアが浮かばない。帰りがけ、消沈しながらふと振り返った光景に「これだ」とひらめいた。「ピラミッドは大小いくつもが集まった景観こそ大切なのだと気づきました」
6基のピラミッドの高さは最大21㍍。ガラスばりなのは、砂時計が常に人々の目に入るようにとの意図だ。高さ5・2㍍、最大直径1㍍の砂時計を毎年の初めにひっくり返す。「そのためのスペースや、かかる力を考慮するのが一番難しかった」と高松さん。
ミュージアムの小川英二事務局長をはじめ職員は、自宅で年越しをしたことがないという。「砂時計をひっくり返してようやくおめでとう、と新たな1年を迎えます」
(鈴木麻純、写真も)
DATA 設計:高松伸建築設計事務所 《最寄り駅》 仁万 |
徒歩約10分の道の駅ごいせ仁摩(お問い合わせは0854・88・9001)は車中泊(要予約)が可能な道の駅。レストランでは穴子まるごと1匹がのった「穴子天丼」(1300円)がおすすめ。売店などは午前9時~午後6時、レストランは午前11時~午後5時。祝日を除く火曜休み。