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牧野富太郎記念館(高知県高知市)

自然に恵まれ高知市民に親しまれる五台山。
山中にある県立牧野植物園には、木々に隠れるようにきょうだいのような二つの建物が。

園内には、牧野博士ゆかりの植物をはじめ、3千種類以上の植物が植えられている。[前]9時~[後]5時(入園は30分前まで)。休園日は要確認
園内には、牧野博士ゆかりの植物をはじめ、3千種類以上の植物が植えられている。[前]9時~[後]5時(入園は30分前まで)。休園日は要確認
園内には、牧野博士ゆかりの植物をはじめ、3千種類以上の植物が植えられている。[前]9時~[後]5時(入園は30分前まで)。休園日は要確認 本館と展示館合わせて422本の垂木は全て長さが異なる。屋根の野地板や壁は、木目のバランスを見ながら張りあわされている

植物を愛した博士への思い

 「日本の植物分類学の父」と呼ばれる牧野富太郎博士(1862~1957)は高知県出身。博士自筆の植物図や標本、蔵書などの管理、研究、展示を行う牧野富太郎記念館は、高知市街を見晴らす五台山に立つ。

 「五台山は不思議な山で、植物の力が強く豊かなのがわかる。そこに建てる建物は高さを抑えて、山に隠れるようにしたいと考えました」と設計した内藤廣さんは話す。

 森林保全や林業振興に力を入れる発注者の高知県からは、木材を使ってほしいという要望があった。コンクリート造りより軽量な木造建築が台風の強風に耐えるためにはどんな形、構造がよいのか。

 100個以上も模型を作り検討を繰り返した末、ヒントになったのが以前博物館で見たヒラメの骨格標本だった。そしてもう一つが雨上がり、建設予定地を歩いていて目に入った落ち葉。海底で砂の中に身を潜めるヒラメと、岩に張り付いた落ち葉の姿が重なり、イメージができ上がったという。

 約200メートル離れた本館と展示館はどちらも中央がくりぬかれた馬蹄(ば・てい)形。ヒラメに学んだ屋根の「背骨」はスチールを使用、木製の垂木と接合する鋳物はミリ単位で調整した。屋根を支える黒い柱は、建物を大地につなぎとめる錨(いかり)の役割も果たす。

 設計前、正確で精密な牧野博士の植物図を見た内藤さんは、自然への敬意や愛情を感じた。「牧野さんにほめてもらえるような建物に」という思いがエネルギーだったと振り返る。

 完成から20年余り。市街地から見えていた屋根もほとんど木々に隠れている。内藤さんは「牧野さんも喜ぶんじゃないかな」と手応えを感じている。

(伊東哉子、写真も)

 DATA

  設計:内藤廣建築設計事務所
  階数:地上2階(本館)、地上1階(展示館)
  用途:展示施設、研究室、収蔵庫など
  完成:1999年

 《最寄り駅》 高知駅からバス


建モノがたり

 展示館にあるカフェ アルブル内の「Book Café 中庭文庫」では、植物や牧野博士に関する書籍を読みながら、コーヒー(400円)や日替わりのケーキなどを楽しめる。[前]11時~[後]5時(ラストオーダーは30分前)。

(2022年8月16日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)

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