人口約4500、高原野菜で知られる長野県川上村。唯一の中学校の建物には、地域の文化継承への思いが込められているというのだが。
長野県東部、村域全体が標高1千㍍を超える川上村。八ケ岳も近い川上中学校(生徒数86人)を訪れると、エントランスの「美林」が迎えてくれる。高さ8㍍の列柱は、村の森林の6割を占め村の原風景ともいえるカラマツ林から着想した。
レタス産地として有名な村だが、江戸時代以来の植林で、長く林業が主産業だった。その歴史を次世代に伝えるため、校舎改築にあたっては地元産の木材をふんだんに使うことにした。
設計を担当したエーシーエ設計(長野市)は「木の美しさ」の見せ方に気を配った。当時の社長が命名した「美林」はそれを象徴する。反りやねじれが出やすいカラマツの難点を、集成材とすることでカバー。アーチ形の部材2~4本を束ねて屋根を支える形は20分の1の模型を作り、構造的妥当性に加えて美的観点からの確認もした。「デザインも構造も、プロジェクトチーム全員が『これだ』と納得した」と執行役員の海瀬務さん(55)は振り返る。
内装や机、イスなどもカラマツ製で、使われた木材1035立方㍍のうち約8割を村内産が占める。戦後植林されて伐採期を迎えていたもので、伐採には当時の生徒たちが立ち会った。自然に「祖父母が植え親が育てたカラマツで孫が学ぶ」と言われるようになった。音楽堂(音楽室)にはパイプオルガンがあり、卒業生が将来ここで結婚式を挙げるのが改築当時の村長の夢だったという。
床はピカピカ。毎日3分、全員で行う雑巾がけは、名付けて「100年清掃」。村の木で造った校舎が100年後も使えるようにと願いを込めている。
荻原正樹教頭(54)は「生徒たちのおおらかさが校舎と似ている」と感じる。生徒たちに校舎について尋ねると、「地元のカラマツを使っているところが好き」と口をそろえた。
(島貫柚子、写真も)
DATA 設計:エーシーエ設計 《最寄り》信濃川上駅から車 |
車で約5分の森の駅マルシェかわかみ(問い合わせは0267・78・3250)は生産量日本一の川上レタスをはじめ川上村で収穫される農作物を扱う直売所。4月下旬までの冬季営業は[前]10時~[後]3時半。日月水木、12月28日~1月9日休み。4月下旬~11月中旬の通常営業は[前]9時~[後]5時。無休。