下関から約1時間半、田園地帯にある山陰線の無人駅にこのごろ人が集まってくるという。いったいなぜ?
阿川駅は、海を貫く一本道の橋の光景がSNSで注目された角島(つのしま)の最寄り駅だ。だが、沿線人口の減少とともに利用者数も減りつつある路線。老朽化した駅舎を取り壊し、簡素化する方向で検討がされていた。
そんなとき、「公共性の高い駅を拠点に地域を再編集できないか」と考えたのが、出身地の萩市でゲストハウスを営む塩満直弘さん(38)だった。学生時代に国内外を旅し、若い世代にも萩を知ってほしいと起業した。萩以外にも拠点を作り、訪れた人により広いエリアを周遊してもらえればと、無人駅を公園のような開けた空間にしたいと思った。
3棟あるキューブのうち、一つはJRが建てた待合室、二つがカフェとレンタサイクルを運営する「Agawa」。小さな建物に分かれているのは、既製品のカーポートを使った建築物であるためだ。
設計したTAKT PROJECT代表の吉泉聡さんと建築家の森啓将さんが既製品を採用したのは、コスト面の配慮とともに、将来の展開に備える意味があった。建築家が手がける建物はデザインなどが特徴的なものも多いが、「将来的な展開にも対応しやすい」と、あえてシンプルな建築とした。
はめ殺しの窓枠は地中に埋めるなど、視界をさえぎるものを極力なくした室内にいると、周辺の景色との一体感が強い。「この場所自体がカルチャーになるよう、建築は一歩引いている。それが居心地の良さかもしれません」
土日祝日に1往復走る観光列車「○○のはなし」は2022年から阿川駅に10~15分ほど停車、カフェで買い物ができるようになった。角島やビーチに車で来た人たちも訪れ、カフェの客の半数以上を占めるという。塩満さんは「日本の原風景、昔ながらの風景がまだまだ残っている所。たたずみに来てほしい」と話す。
(伊東哉子、写真も)
DATA 設計:吉泉聡(TAKT PROJECT)、 |
Agawaでは阿川のみかんジュース(500円)、俵山ジビエと季節野菜のカレー(850円)など、季節ごとに地元の素材を使ったドリンクや食べ物が楽しめる。コーヒー(350円)は、山口県内で展開する「コーヒーボーイ」のAgawaオリジナルブレンド。(土)(日)(祝)の正午~午後4時半営業。