世界に禅を紹介した仏教哲学者の名を冠した施設。直線や白壁が印象的な建物には、どんな時間が流れている?
兼六園にも近い金沢市の文化的地区に立つ鈴木大拙館。鈴木大拙(1870~1966)への関心が、特に海外で改めて高まったことを受けて建設された。生誕地に近く、武家屋敷があった時代からの緑に恵まれた閑静な場所だ。
玄関棟、展示棟、思索空間棟を回廊でつなぎ、玄関の庭、露地の庭、水鏡の庭を配した施設建物の設計を手がけたのは、建築家の谷口吉生さん(85)。父で同じく建築家の吉郎さんも金沢出身、大拙と交流があったという。
玄関棟から展示棟へ一直線に伸びる内部回廊は黒壁が続く。ほのかにともる光を目指して進むと、光源は突き当たりの壁にかかる大拙の肖像写真だった。続く空間には書籍や原稿、書、写真などが展示されているが数は少なく、説明もごくわずかだ。
「記念館とか資料館ではないのが当館の特徴です」と学芸員の猪谷聡さん(47)は話す。「過去の偉人として大拙を紹介するのではなく、生き方や考え方を現代に生きる形で伝えるのが狙いです」
水を張った水鏡の庭に囲まれた思索空間棟へは、テラスのような外部回廊から。さっき来た回廊を戻る形なのだが、開放感と水の風景で、全く別の場所と錯覚しそうになる。
正方形の思索空間棟には90㌢角の畳敷きの腰掛けが置いてあるだけ。四方の開口部から穏やかな水面や周囲の緑を眺めたり、天井の円窓が切り取る空に目をやったり。「館内を1周ではなく、グルグル時間をかけてめぐるのが面白いです。ちょっと新しくなった自分が見れば、また面白さも変わってきます」
平行、直交する潔い直線が目立つ中で、思索空間棟の天窓が円形なのはなぜだろう? 谷口さんに尋ねてみた。「上から見ると建物の四角、(方形)屋根の三角、窓の丸。(禅僧)仙厓義梵の○△□です」
(片山知愛・写真も)
DATA 設計:谷口吉生/谷口建築設計研究所 《最寄り駅》 金沢駅からバス |
金沢駅から車で約15分の谷口吉郎・吉生記念金沢建築館(☎076・247・3031)は、谷口吉生さんが父の住まいの跡地に設計した建築と都市に関するミュージアムだ。企画展「アニメ背景美術に描かれた都市」を11月19日まで開催中。常設展と合わせ800円。(前)9時半~(後)5時(入館は30分前まで)。原則(月)休み。