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マルシェ ヴィソン(三重県多気町)

大屋根の下 集めた地元愛

大屋根の下には16店舗が入る迷路のような「市場」が続く

名古屋から伊勢方面へ高速道路を走ると目に入る、森の中の大きな屋根。これはいったい何?

 約119㌶、東京ドーム24個分の起伏ある敷地に、約70の店舗やホテル、温浴施設が点在する。三重県中部、多気町の山あいに2年前にグランドオープンした「VISON(ヴィソン)」は食と健康がテーマのリゾート商業施設だ。

 「山の地形を生かすことが最大のテーマだった」。全体プラン作成や主要施設設計を担当した赤坂知也さん(55)は話す。「土地を平らにして都会と同じようなものをつくっても仕方ない」

 中でも水産、畜産、農産品など地元食材が集まる「マルシェ ヴィソン」は、名古屋方面から入ってまず目に入る建物だ。

 緩やかな上りカーブに沿って、片流れの大屋根が約200㍍続く。宇宙へ向けた大型アンテナにも思える曲面は、遠くの山並みと呼応する。屋根を支える柱と梁は、伊勢神宮外宮の域内にあり「あこねさん」と親しまれる豊川茜稲荷神社の連続する鳥居をモチーフとした。

 屋根の下には箱状の店舗が並ぶ。外壁がなく外と内がつながる空間は、天気にかかわらず自然を感じられる。一つ一つは小さな店の集まりに一体感をもたらす大きな屋根は「大地とつながるシンボル」の表現でもある。

 大屋根の反対側は県産のスギを使ったルーバーが取り付けてある。ニスや防腐剤の塗装はせず、傷んだらその部分から交換するという。「20年ごとに社殿を造り替える神宮のおひざ元ですから、地元の木材で更新しながらメンテナンスするのもありかと」

 長い時間軸での地域への視点は、VISONを運営する「ヴィソン多気」の立花哲也社長(49)の言葉にも表れている。「20年30年を超え長く事業を継続するため、あえて木造の建物にした。テナントの入れ替えも考えていない」

マルシェや他の店舗に出店するのは地元を中心に1件1件選んだ生産者やメーカー。「出店者さんにもやり続けてもらいたい。そのために長く愛され大事にされる建物が必要だったのです」

(佐藤直子・写真も)

 DATA

  設計:赤坂知也建築設計事務所
  階数:地上1階
  用途:産直市場
  完成:2021年

 《最寄り駅》 多気駅から車

マルシェ ヴィソン
https://vison.jp/area/marchevison/


建モノがたり

 VISON内の温浴施設「本草湯」(☎0598・39・3900)は、本草学をベースに施設内や近隣で採れる薬草を使った薬草湯が自慢。薬草の種類をおよそ5日ごとに変え、年間で72種が楽しめる。空や木々が水面に映り込む「水鏡の湯」なども。中学生以上800円、3歳以上400円。午前6時~翌午前0時(入館は30分前まで)。

(2023年8月8日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)