やや古そうな一見普通の民家。しかし下のほうが、まるで深みにはまり込んだよう。どうしてこうなった?
草木の茂る急勾配の坂道の途中、傾斜地に「合宿所 yutorie」はある。下部がすっぽり箱形の土台に埋まり、ひさしとの間隔はわずか。地面から約1・5メートルの高さまでモルタル壁でがっちり固めて、強度を高めるためだろうか?
オーナーで自らこのアイデアを出した空間デザイナーの近藤尚さんに聞くと、機能面の意味は特にないという。「一見無駄だが、そうした部分が人を刺激し、創造性につながると思いました」
家はもともと、妻・鈴木夢乃さんの祖父が別荘としていた。温泉をひいた風呂につかりながら趣味の油絵を描く場所だったが、祖父が高齢になってからは空き家状態に。維持管理のためにも2人が新しい使い方を考え始めた。
鈴木さんもアート、デザイン関係の仕事に携わる。「祖父がアトリエとして使っていたことを踏襲して、ものづくりをする人たちが過ごせる場所にしたい」と考え、クリエーターをはじめ企業の合宿、研修に使う施設を念頭に、主に内装を更新した。名前は「湯のあるアトリエ」からつけた。
モルタルに埋まった平屋は、会議室を中心にキッチンもある作業棟。同じ敷地に2階建ての家もあり、こちらは客室3室の宿泊棟とした。利用は2棟まるごと貸し切り制。宿泊棟には鈴木さんの母裕美子さんが切り盛りする薬膳喫茶を併設、宿泊者以外にも開放されている。
計画を始めた時、近藤さんと鈴木さんは東京に住んでいたが、熱海で官民共同のまちづくりプロジェクトを知って参加。毎週のように熱海に通ううちに知り合いも増えた。コロナ禍の影響もあってオープンと同時に熱海に移住、「仕事も生活もスムーズ」となじんでいる。
午前11時から翌日午後5時まで滞在の30時間制。「集中できるし、くつろげる。緩急の中でアイデアが生まれる空間になれば」と鈴木さんは期待している。
(伊東哉子、2枚目以降の写真も)
DATA 設計:近藤尚/株式会社ユトリエ 《最寄り駅》 来宮 |
来宮駅からの道の途中にある来宮神社は、パワースポットとして人気。御神木「大楠」は樹齢2100年以上で、約24メートルある幹の周りを1周すると寿命が1年延びるともいわれる。午後5時~11時は境内全体を使って、草木に宿る木霊を表現したライトアップも。
◆合宿所 yutorie(ユトリエ)