赤茶色の箱を積み上げたような、オフィスビルと見違えるような建物。お寺の境内になぜこの形?
鉄サビ色の、角張ったピラミッド。愛知県岡崎市の住宅街に立つ浄土真宗本願寺派西光寺を訪ねると、異色の本堂に迎えられる。「初めて来られた方の多くが、ここがお寺か?と驚かれます」と、同寺分院(同県豊田市)住職で本堂建設に中心となって関わった大久保善慧さん(77)がほほ笑む。
「仏教の原点に戻り、『どう生きるか』を考える場にしたい」と考えた大久保さんが設計を依頼したのは、豊田市出身の建築家・吉村英孝さん(48)。まだ20代だったが、大久保さんの息子と高校時代の同級生という縁があった。
2人を中心に、これからの寺のあり方を3年がかりで話し合った。「遺跡のイメージはどうか」といったアイデアを含め、様々な構想が浮かんだ。最終的に「シンプルな形に集約した」と吉村さん。設計図を見た大久保さんは「最初は驚いたが、イメージとぴったりだった」。
インドネシアの仏教遺跡ボロブドゥールのピラミッド状の建造物を参考にしたが、本堂を中心に回廊が取り巻く日本の寺社建築のイメージも重ねた。集会場などとして残す旧本堂や鐘突堂、庭などの位置は変更しないという制約の中で、存在感を約10メートルの高さで出した。
外壁は、特殊なサビで内部を保護する「コールテン鋼」を用い、約30のパーツを現地で溶接した。オレンジ色だった外壁は年月を経て落ち着いた赤茶色に変化している。
堂内に入ると天井は外観と同じく階段状に高くなり、視線をさえぎる柱もない大空間が広がる。
寺院としての荘厳さを保ちつつ、様々な用途に対応できるよう考えられたこの本堂で、大久保さんは新たな試みを始めた。仏教入門講座、参加者が自らの心と向き合う「話し合い法座」など、宗派を問わない集いの場は10年以上続いている。
(木谷恵吏、写真も)
DATA 設計:吉村英孝/SUPER‐OS 《最寄り駅》 愛知環状鉄道・大門 |
徒歩8分の大樹寺(☎0564・21・3917)は、徳川家康の生家・松平家と徳川将軍家の菩提寺。歴代将軍の身長に合わせて作られた位牌などを見られる拝観コースがある(500円)。江戸時代に直線で約3㌔の岡崎城から寺を拝めるように本堂などを配置、その眺望は「ビスタライン」と呼ばれて現在も守られている。