赤茶色のれんがの壁に三角の瓦屋根。建築後の年月を感じさせる建物は、八王子の歴史と深いつながりがあるのだという。
国道16号沿いに立つ「Coffee Bricks」は1918年に米蔵として建てられた。建てたのは店主・塚本勇喜さん(64)の曽祖父。米店を営んでいた。
1段おきに長手(長辺)と小口(短辺)が見えるようにれんがを積む「イギリス積み」。柱とはりで骨組みを組み、れんが壁と柱をボルトで連結した「木骨れんが造り」で、関東大震災でも大きな被害をまぬがれた。
戦後に米店を廃業後は物置として使われていたのを、塚本さんが30歳で相続した。建造物の博物館に寄贈を申し出たが、「動かすのは難しい」とかなわなかった。レースカーのエンジニアを辞めて地元に帰っていた塚本さんが喫茶店を開くことにした。
割れて雨漏りしていた瓦を取り換え、コンクリートと板で床を30~40センチかさ上げ。重厚感のある銅の扉と通気口は国道側の外壁の装飾とした。改修に約2年かけて1990年にオープンした。
「八王子のれんがの歴史を今に伝える数少ない建物」と、八王子市郷土資料館学芸員の中村明美さん(59)は話す。
八王子にれんが工場ができたのは1897年。生糸や織物の流通拠点だった八王子には1889年に新宿との間に鉄道が開通。さらに甲府経由で名古屋まで結ぶ官設鉄道(現在のJR中央線)の建設計画が動き出した。
鉄道のホームやトンネル、橋台に使われる需要を見込んで、地元資本で設立されたのが八王子煉瓦(れん・が)製造だった。その後関東煉瓦、大阪窯業(よう・ぎょう)と社名を変え、1934年に閉鎖されるまで37年間に製造されたれんがは鉄道のほか学校の門柱や甲州街道の舗道にも使われた。
Coffee Bricksのれんがも大阪窯業時代のものとみられる。「蔵にれんがを使うって、建主の心意気というか、見てほしいという気持ちを感じますね」と中村さん。塚本さんは「接客業は意外と大変」というが、「ここまでやったら子どもみたいなもの」と蔵を守っていくつもりだ。
(田中沙織、写真も)
DATA 設計:不明 《最寄り駅》:片倉 |
Coffee Bricks(問い合わせは0426・37・0296)のメニューは、自家焙煎(ばい・せん)豆を使ったコーヒー(各種550円~)や自家製シフォンケーキ(450円)など。午前11時~午後5時半((日)(祝)は1時から。ラストオーダーは30分前)。(月)~(木)休み。小学生以下の入店不可。