最寄り駅から徒歩10分余り。大きくうねる白い壁が住宅街で異彩を放つ建物は何?
カーブした壁に沿って2棟の建物の間を進むと、深いポケットのような中庭があった。見上げると、しずく形に切り取られた空。ワンルーム室が入る「くぼみアパートメント」は、周辺に立ち並ぶ四角い賃貸住宅とはかなり趣が違う。
オーナーは、設計した熊木英雄さん(52)のおば(81)。所有する土地にアパートを建てるにあたり、「若い人が希望を持てる建物」にしたいと希望した。
「独身で子どもがなかったせいもあったかもしれません。何か将来に残したいと考えたようです」と熊木さんはその思いを代弁する。折しもコロナ禍で学校や職場などに人が集まりにくくなった時期だった。都会に1人で暮らす若者が孤立せず、近所どうしで自然に交流が生まれる場が理想だった。
おばの願いをどう形にするか。熊木さんが思い出したのが、代の頃設計事務所で仕事をした英国での経験だった。「公共建築や住宅に曲線が多く使われているのに驚いた。曲線が生み出すダイナミックな空間、非日常性からストーリーが生まれると感じました」
カーブで角がとれ、広く開いた道路側から吸い込まれるように中庭に入ると、曲線の効果か落ち着きを感じる。ほとんどの部屋は、中に入るのに中庭を通る。集合ポストも中庭の奥にあり、住民はここを自然に出入りすることになる。円形のテーブルとベンチは自然に言葉を交わす「井戸端」を思わせる。
各室にベランダはなく、洗濯機とガス乾燥機を備えた。部屋の面積を広くとるためだが、近隣に多い病院で交代勤務をする人などを想定した配慮でもある。洗面台は大きめに、水回りの壁は部屋によって違うカラフルなアクセントカラーを施した。
「シェアハウスもいいけれど、もう少し独立した住み方を提案したい」。入居者たちがつながりながら心地よく暮らす場になることを、熊木さんは期待している。
(佐藤直子・写真も)
DATA 設計:熊木英雄 《最寄り駅》 戸田公園 くぼみアパートメント |
徒歩20分の戸田公園内にある戸田漕艇場は1964年東京五輪の会場となったボート競技場。大学、社会人チームの艇庫が集まり、練習風景が見られる。東西2.4㌔の水路のうち、戸田公園大橋以西の500㍍は競艇場としても使われる。