瀬戸内海に面した場所にできた新施設。水に浮かんでいるように見えるカラフルな直方体は、何に使われているの?
広島県西端の大竹市に今年3月にオープンした下瀬美術館は、広島市の建材メーカー・丸井産業が、創業家の美術コレクションを収蔵、展示するために建てた。瀬戸内海に面した4.6㌶の敷地に美術館、レストラン、ヴィラ(宿泊棟)10棟が点在。全て世界的建築家・坂茂さん(66)が設計した。
ひときわ目を引くのは、海辺に置かれた大きな八つの箱。飾り気のない形ながら、全体がガラスで覆われピンク、オレンジ、黄色、紫……とカラフル。その姿は足元の水面に映し出され、水に浮いているようだ。
「瀬戸内海の島々から着想しました」と坂さんが話す箱は水盤上を移動できる「可動展示室」。並べ方を変え通路でつなげば展示の構成、順序が変化する。「リピーターを増やすため、行くたびに驚きがある館にと考えました」
台船上に設置された10㍍角の展示室は、水盤の水位を60㌢まで上昇させると浮かび上がり、約40㌧の展示室が2人程度で移動できるという。法的な許可を得た7パターンの配置が可能。展示室をつなぐ通路は軽量のポリカーボネート素材を採用した。
海と山を見渡す立地を効果的に利用して見せるのが、外面は鏡のように景色を反射、内側からは透明に見える「ミラーガラス」だ。楕円形のエントランス棟や、敷地の中央を貫く長さ180㍍の通路の外壁に使われ、空間が拡大したように感じる。どこからでも海が見えるよう、地盤を3㍍かさ上げしてもいる。
併設のヴィラのうち4棟は1990年代に坂さんが手がけた住宅作品のリメイク。谷藤史彦副館長は「美術館、宿泊、レストラン一体の施設として海外の人の認知度も上げていきたい」と話す。展示内容は人形、ガラス工芸、日本近代と西洋の絵画が中心。「建築や全体の景観と合わせて楽しんでほしい」
(片野美羽・1枚目の写真も)
DATA 設計:坂茂建築設計 《最寄り駅》 大竹駅からバス |
徒歩約10分の小方港からは、対岸の岩国・大竹地区石油コンビナートの工場夜景が見える。日本初の石油化学コンビナートとして1962年に誕生、工場では夜間も計器類など細かい部分を目視で点検、確認できるよう日中と同じ明るさを保っているという。