屋上のオブジェが「溜池のブルドーザー」と親しまれたビル。役目を終え、1月から建て替え工事が始まっている。
横に長い六角形の窓が白壁に規則正しく並ぶ。重機大手コマツの本社ビルは、1966年の完成当時、一帯でまれな高層建築だった。
建築物の高さを約30メートル以下とする戦前からの「百尺規制」がまだあった。制限いっぱいに建てても8~9階が標準のところ、10階建てにするためにはりを薄くした。さらに内部を自在に区切れるよう耐震壁を置かず、外壁のみで支える構造。このため外壁は分厚く、壁の中に補強の鉄骨を斜めに渡したため窓は六角形、出入り口は五角形となった。
「とにかく天井が低くて、ちょっと背の高い方なら手が届きます」と総務部担当部長の堀恵子さん。ほかにもバスが入れない地下駐車場、温度調節に難がある冷暖房など不便さは感じる。一方で、社員の誇りは外壁に使われたギリシャ産大理石と、内装を彩るグリーンオニキス。「どっしり感、重量感が魅力ですね」
「会社が成長すると信じ、未来への希望を込めて建てた高度成長期らしい建物」と、近現代の建築に詳しい倉方俊輔・大阪公立大教授は話す。当時盛んだったのは、機能を重視し、装飾を極力排するモダニズム建築。これと一線を画す大理石張りの壁は「劣化しにくい石材が『不動のもの』を造るのにふさわしいと考えたのでは」と推測する。
屋上には主力製品だったブルドーザーの約4倍大の模型が設置された。建設当時の社長の肝いりで庭園も整備し、さまざまな草木を植えた。中でも「桜庭園」は名所として知られ、一般にも開放された。
本社ビルでの最後の日だった昨年の仕事納め、堀さんらは社員向け“秘境ツアー”を企画した。会長室、社長室、銀行がテナントだった頃の大金庫、電話交換室……。新ビルでの業務開始は3年後の予定。旧ビルの大理石やオニキスは再利用されるという。
(深山亜耶、写真も)
DATA 設計:中山克己建築設計事務所、増沢建築設計事務所 《最寄り駅》:溜池山王 |
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