近所の子どもがサッカーをしたり、敷地内の保育園児が散歩をしたりする場になっている
キャンパスの一角が丘のように隆起している。波打つ灰色屋根の下に入ると、大木の根のような構造に圧倒される。ここは何?
自然豊かな東京学芸大学のキャンパス。波打つ屋根の「学ぶ、学び舎」は、公園の遊具のようにも見える。「HIVE」とはハチの巣の意味だ。いったい何をするための場所なのか?
「その問いかけこそが、この建物を建てた目的です」と、設計者の秋吉浩気さん(35)は語る。
あえて言うなら「次世代の学びを探求する教育インキュベーション施設」。教員志望者が多い東京学芸大を中心に、「新しい公教育の創造」を掲げて始まったプロジェクト「Explayground」の拠点として建てられた。
最初は壁や窓がある建物を想定していたが、会議を重ねる中で「計画された空間から創造的な発想は生まれない」といった意見が出た。少なくとも3回、構想を練り直し、ようやく今のデザインに落ち着いた。
親交のあった投資家の仲立ちでプロジェクトに参加した秋吉さんにとっても新しい挑戦だった。森林資源の活用をテーマに2017年に起業、建築設計や木材加工機の販売を行う。これまで手がけた木造住宅などと違い、耐火性能が求められ、初めてコンクリートを併用した。
形の異なる千以上の直交集成板(CLT)のパーツを組み合わせて屋根を構成。葉脈のような溝からコンクリートを流し、厚さ8センチの膜状に木材を覆っている。
小さなパーツで造形した屋根の表面には芸術作品のような表情が生まれ、「生命感のある」建物になったと秋吉さんは自負する。
「用途を定めていない建物を国立大学に造ったのは前代未聞と言われています」と、東京学芸大Explayground推進機構・理事の藤村聡さんは話す。「巣」に集まる人々から何が生まれるか、実験は始まったばかりだ。
(高田倫子、写真も)
DATA
設計:VUILD 階数:地上1階 用途:集会所兼木工所 完成:2023年
最寄り駅:国分寺、武蔵小金井
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武蔵小金井駅の隣の東小金井駅から徒歩約7分の東京農工大学科学博物館(☎042・388・7163)は、同大工学部の前身である農商務省蚕病試験場「参考品陳列場」から始まり、130年以上の歴史がある。午前10時~午後5時(入館は1時間前まで)。19日(日)午後1時から「国際博物館の日」記念イベントを開催。無料。原則日・月・祝日、5月31日など休み。
(2024年5月14日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)