大手ゼネコンの技術研究所に現れた、ろくろ作りのカップを思わせる建物は何?
大林組技術研究所(東京都清瀬市)に入るとすぐ目を引く「3dpod」は約27平方メートル、1DKほどの平屋建て。壁や天井など地上の部材全てを建設用3Dプリンターで造った、技術開発のための実証棟だ。
「言い出しておいて、でき上がらなかったらどうしようと思いました」。技研で3Dプリンター開発を担当し、作業をつきっきりで見守った坂上肇さん(40)は話す。
使ったのは、長さ3メートルのロボットアームがついた、小型重機のような3Dプリンター。秒速38センチで動くアーム先端のノズルから、ケーキを飾るクリームのように専用モルタルを搾り出す。5ミリずつ高さを増しながら、「一筆書き」で壁の枠を造る。
プログラム通りに自動で動くプリンターだが、屋外での作業は気温や天候の影響を受け、建設当初は作業を安定的に進めるのに苦心したという。連日細かい調整に腐心した坂上さんは「3dpodを見ると感極まってしまう」と冗談めかす。
3Dプリンターによる建築は省力化や工期短縮、自由なデザインなどのメリットが期待され、国内外で研究開発が進む。3dpodの特徴は「耐震構造を実現したこと」と設計を担当した木村達治さん(46)。モルタルで枠を形づくった壁の中空には鋼繊維入りのセメント系材料「スリムクリート」を流し込み、鉄筋・鉄骨を使わない建物を可能にした。
上から見てまゆのような形は、強度や作業効率を高め、少ない材料で大きな空間を得るため何十もの案を検討した結果だ。ネット状のユニークな天井は外階段から上がれる屋上を支えている。将来的に2階、3階建ての建築物に応用することを視野に入れた。
設定したいくつかの課題はクリアしたが、同社のロードマップでは第1段階にすぎないという。3Dプリンターと現地の材料を使って月や火星に基地を遠隔建設……未来の展望は広がっている。
(島貫柚子、写真も)
DATA 設計:大林組一級建築士事務所 《最寄り》清瀬駅からバス |
徒歩2分のブーランジェリーソガ(☎042・491・8322)は三角屋根と黄色い壁が目印。クロワッサン、デニッシュ、メロンパンなど焼きたてパンを目当てに大林組技術研究所のスタッフも足を運ぶ。お薦めは、「グレープフルーツのデニッシュ」。午前10時~午後4時(無くなり次第終了)。不定休。