読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
64プレゼント

藤田珈琲theROASTERYLab.(大阪府東大阪市)

らせん状のスロープ つなぐ営み

ゆるやかな円弧を描いて続くスロープの上に住居がそびえて見える。2階付近のカフェの営業は〈前〉10時~〈後〉6時(〈土〉〈日〉〈祝〉は〈前〉8時~〈後〉6時)
ゆるやかな円弧を描いて続くスロープの上に住居がそびえて見える。2階付近のカフェの営業は〈前〉10時~〈後〉6時(〈土〉〈日〉〈祝〉は〈前〉8時~〈後〉6時)
ゆるやかな円弧を描いて続くスロープの上に住居がそびえて見える。2階付近のカフェの営業は〈前〉10時~〈後〉6時(〈土〉〈日〉〈祝〉は〈前〉8時~〈後〉6時) 焙煎機のある中心部をスロープが取り巻き、上層階への動線になっている 夕闇に中の照明が映える のぼっていくスロープには客席が続く 入り口を入ってすぐのスロープでコーヒー豆や食パンを販売

 住宅や町工場が並ぶ大阪府東大阪市。JRおおさか東線の高架近くにそびえるガラス張りの建物は?

 

 全面ガラス張りの鉄骨造りの建物は、時計回りにスロープが巻きついて上がっていくように見える。中心部はキューブ状の3階建てで、回廊が周囲を包みこむ構造になっている。 

 「事業のルーツだった喫茶店をもう一度オープンし、事業の集大成としてのモニュメントにしたい」

  レギュラーコーヒーの製造・販売を続けてきた藤田珈琲(コーヒー)の創業者、藤田孟さん(84)が、息子の悟さん(47)への事業承継と本社移転に際し、「藤田珈琲 the ROASTERY Lab.」を2020年に建てた。

  中心部の1階には焙煎機のある焙煎室があり、2階はパン焼き工房やキッチンと、喫茶店の「心臓部」になっている。3階には孟さん夫妻の住居がある。

 来店者入り口から始まるスロープは、1階付近にコーヒー豆とパンの販売カウンター、2階近辺にカフェの客席と続く。3階付近は事務所に。 

 スロープは幅3.3メートルで、1周半すると4.5メートルのぼる勾配はなだらかで心地よい。2階部分で中心部と行き来できるだけでなく、中心部にはほとんど壁がないため、焙煎機やキッチンが間近に見える。

 設計した森下修さん(61)は「お客さんや従業員の営みがフローとなって、らせん状に巻き上がることをイメージした」と話す。全方向から光が入るガラス張りにすることで、中の動きが街に投影され、地域の人々が集まる動線ができるように意識したという。

 中心部とスロープの間には、空気が流れるすき間をつくっている。暖まった空気が煙突効果で上昇して屋上から排気され、空気が循環する仕掛けも施された。

 大阪・四ツ橋で1963年に喫茶店からスタートした藤田珈琲。「Lab.」と名付けたように、来店者に焙煎を体験してもらったり、豆の種類や歴史について学ぶコーヒー教室が開かれたりしている。

 社長を引き継いだ悟さんは「仕切りのないオープンなスペースが、透明性のある企業風土も体現できている」と話す。

(本多昭彦、写真も)

 DATA

  改修設計:森下建築総研
  階数:地上3階
  用途:カフェ、事務所、住宅
  完成:2020年

 《最寄り》:河内永和


建モノがたり

 徒歩約30分の宮本順三記念館・豆玩舎(おまけや)ZUNZO(☎06・6725・2545)は、江崎グリコのおもちゃデザイナーで洋画家の宮本順三の作品や、宮本が収集した世界の人形や玩具、仮面などの民族文化資料を展示。500円。火曜~土曜の午前10時~午後5時。電話での予約制。

(2024年7月2日、朝日新聞マリオン欄掲載記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください)