住宅や町工場が並ぶ大阪府東大阪市。JRおおさか東線の高架近くにそびえるガラス張りの建物は?
全面ガラス張りの鉄骨造りの建物は、時計回りにスロープが巻きついて上がっていくように見える。中心部はキューブ状の3階建てで、回廊が周囲を包みこむ構造になっている。
「事業のルーツだった喫茶店をもう一度オープンし、事業の集大成としてのモニュメントにしたい」
レギュラーコーヒーの製造・販売を続けてきた藤田珈琲(コーヒー)の創業者、藤田孟さん(84)が、息子の悟さん(47)への事業承継と本社移転に際し、「藤田珈琲 the ROASTERY Lab.」を2020年に建てた。
中心部の1階には焙煎機のある焙煎室があり、2階はパン焼き工房やキッチンと、喫茶店の「心臓部」になっている。3階には孟さん夫妻の住居がある。
来店者入り口から始まるスロープは、1階付近にコーヒー豆とパンの販売カウンター、2階近辺にカフェの客席と続く。3階付近は事務所に。
スロープは幅3.3メートルで、1周半すると4.5メートルのぼる勾配はなだらかで心地よい。2階部分で中心部と行き来できるだけでなく、中心部にはほとんど壁がないため、焙煎機やキッチンが間近に見える。
設計した森下修さん(61)は「お客さんや従業員の営みがフローとなって、らせん状に巻き上がることをイメージした」と話す。全方向から光が入るガラス張りにすることで、中の動きが街に投影され、地域の人々が集まる動線ができるように意識したという。
中心部とスロープの間には、空気が流れるすき間をつくっている。暖まった空気が煙突効果で上昇して屋上から排気され、空気が循環する仕掛けも施された。
大阪・四ツ橋で1963年に喫茶店からスタートした藤田珈琲。「Lab.」と名付けたように、来店者に焙煎を体験してもらったり、豆の種類や歴史について学ぶコーヒー教室が開かれたりしている。
社長を引き継いだ悟さんは「仕切りのないオープンなスペースが、透明性のある企業風土も体現できている」と話す。
(本多昭彦、写真も)
DATA 改修設計:森下建築総研 《最寄り》:河内永和 |
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