鹿児島の工業地帯に、ころんとした丸みのある大屋根。なぜこんなデザインに?
ホームセンターや材木店、企業の営業所が並ぶ街を歩いていると、麦わら帽子をかぶったような小さな建物が現れた。壁面も柔らかな曲線で木のぬくもりが感じられ、ほっとするような外観だ。
danken.Holz(ダンケンホルツ)は、鹿児島市内を中心にベーカリーなどを展開する株式会社dankenが、パン屋Backerei danken(ベッカライ ダンケン)、バウムクーヘン専門店Andenken(アンデンケン)の一体型店舗として2023年8月にオープンした。
テイストの異なる2店舗をどのように共存させるのか。ランチでパンを買う人から、お祝いで菓子を贈る人まで客層は幅広い。「大きな屋根の下に人が集まる」。プロジェクトを統括した大迫学さん(50)はそんなコンセプトでデザインした。
特徴的な大屋根は、外側からは見えない小屋裏に三角形の木の骨組みが幾重にも並び、支えられている。人々が集まる場所のシンボルとして欧州の教会堂を想起し、その小屋組からイメージを膨らませた。まっすぐな木材を使い、長さや組み方の角度に変化をつけることで、楕円形の曲線をつくりあげた。
中央には直径約10メートルの中庭を設け、屋根に丸い穴をあけた。「視界が広がり、透明感が出せるように」。店の壁面は大半がガラス張りで、店内にいると中庭の緑が目にやさしく、外から柔らかい光が差し込む。
軒のつくりも絶妙だ。軒の出を1.5~2mほど取り、店内のどこにいても直射日光があたらない。雨や日差しを避けながら軒下でだんらんもできる。
店長の日高昇一さん(37)によると、周辺の勤め人だけでなく、週末を中心に家族連れも訪れる。「親子で中庭のベンチに座ってパンを食べていることも多い」と語る。
桜島をのぞむ店の道路側には、その溶岩を積んだ低い壁がある。店舗は「桜島に似ている」「バウムクーヘンみたい」といわれることも少なくない。柔らかく温かみも感じる大屋根が、それだけ地元の人々から親しまれているように映った。
(笹本なつる、3枚目以外の写真も)
DATA 設計:IFOO 《最寄り》笹貫 |
徒歩約5分の「danken COFFEE POLDER Terrace 東開店」(☎099・202・0015)は、1ドリンクを注文するとdanken.Holzで購入したパンや菓子を持ち込める。パンは温め直しが可能で、いれたてのコーヒーとともに楽しめる。おすすめは新商品の「バーグドッグ」(360円)。午前9時~午後6時。