福岡最大の歓楽街近くに立つ「宮殿」。日本初といわれるデザインホテルが昨年よみがえった。
夜になると屋台で賑(にぎ)わう中洲の那珂川通り。列柱がデザインされた8階建ての壁面が、川を挟んでそびえ立つ。この面に窓は一つもなく、川面に巨大な神殿のように映る。
「ホテル イル・パラッツォ」のファサード(正面)は、赤い大理石と緑青加工の銅板のコントラストが色鮮やかだ。エントランスは青色の光に包まれていた。
バブル絶頂期、インテリアデザイナーの内田繁(1943~2016)がディレクターとなり、建築設計をイタリアのアルド・ロッシ(1931~97)に依頼した。
当時、この地域はあまり治安がよくなかった。街の変貌(へん・ぼう)までを見据えたクライアントの意向に、デザインの力で質の高い建物をつくって応えようとしたと、内田デザイン研究所の長谷部匡さん(63)は振り返る。
敷地を貫く路地に、階段を上った先の広場。イタリアの原風景が詰まったこの建物に、ロッシはイタリア語で「邸宅」「宮殿」を意味する「イル・パラッツォ」と名付けた。
外壁の赤、緑、窓枠の青の3色をインテリアでも基調として内外の統一感を出し、独特のデザインは多くの人をひきつけた。しかしバブル崩壊後、所有者が代わり、内装も黒を基調とした空間に変わってしまう。
2016年、不動産会社「いちご」が3代目の所有者となる。「内外が一体となった当初の内装を写真で見て衝撃を受けた」。同社の北崎堂献さん(52)は、当時を知る長谷部さんに改装を依頼した。
地下1階のラウンジに下りると、赤や緑の壁に囲まれた空間の中央で、黄金色の棚が水盤に反射し揺れ動いていた。ロッシがデザインしたバーのモニュメントが復活した。宿泊者、来訪者ともに利用できるラウンジに生まれ変わった。
ロッシを研究する東京都市大学講師の片桐悠自さん(35)は「内装に用いられた赤い大理石を外装に転用し、街並みをつくるファサードを意図したのでは」。かつての街と比べると、周辺の人の流れも豊かになっている。
(深山亜耶、写真も)
DATA 建築設計:アルド・ロッシ 《最寄り駅》:天神南 |
地下1階のラウンジ「エル・ドラド」はビジター利用も可能。和洋食ビュッフェの朝食(午前7時~11時)、スイーツを中心に軽食も取りそろえたオールデイダイニングビュッフェ(11時15分~午後9時)、フレンチフルコースのディナー(午後7時開始)、アルコールやアラカルトを楽しめるバー(午後8時~午前0時、休前日は3時まで)を展開。
▼内田デザイン研究所・長谷部匡さんのロングインタビューも掲載しています