三角形の積み木をちょこんと乗せたような建物。低層ながらも存在感があるのは、なぜ?
水戸駅から車で5分ほど南に走ると、県道に面した住宅地に三角屋根の建物が現れる。建築家の青木弘司さん(48)が手がけた「水戸の美容室」だ。
水戸市内で両親が35年間営んだ美容室を引き継ぐことになった瀧澤真一郎さん(43)。SNSやネットで好みの建物を探していたところ、青木さんの「伊達の家」が目に留まった。鉄骨造りの倉庫のような建物の内側に木造の家が立つ、北海道の個性的な住宅だ。
「シンプルだけど面白さがある。素人ながらもお願いできたら」。メールで打診すると、すぐに快諾の返事が来た。
設計で頼んだのは、セット面やシャンプー台の数、動線の確保、そしてプライバシーを守るために道路側に窓を作らないことぐらい。「青木さんの作品を水戸に残してもらいたい」と全面的に「おまかせ」した。
候補地は三つほどあったが、青木さんは高低差のある台形の角地に即決。東側にある江戸時代に建てられた庄屋の居宅の、茅葺き屋根に導かれた。「完成時の佇まいを想像すると、ここしかなかった」
コロナ禍の資材高騰で、当初の鉄筋コンクリート造(RC造)から木造への変更を余儀なくされたが、高さを低めにしてボリュームを抑えることは変えなかった。「2階は茅葺き屋根と呼応するように三角屋根にするなど、控えめでシンボリックな建物になった」
完成した美容室「ヘアーサロンボブ」で瀧澤さんが気に入っているのが、1階の天井に配された十字形の梁。「模様に動きがあり、人が動いている美容室と重なる」。実はこれ、梁として建物の構造に寄与していない、巨大なオブジェなのだ。
室内には、ほかにもコンクリートの柱と見せかけたデザインもある。「色々な情報をちりばめた。発見する喜びや、時間をかけて理解する楽しさを感じてほしい」と青木さん。
街の秘密のような場所であり続けてほしい……。そんな2人の願いが込められた美容室。来店者から、現代アートの美術館のよう、と親しまれている。
(片山知愛、写真も)
DATA 設計:AAOAA(青木弘司、駒井慶一朗、高橋優太) 《最寄り》:水戸駅から車 |
車で5分ほどのイルドット(☎029・303・6818)は、茨城県産の牛・豚肉、鮮魚、野菜を使用したイタリアンレストラン。ランチ(1800円~)、ディナーコース(5千円、1万円)。イノシシ肉の新メニューにも注目。午前11時~午後3時、午後5時半~9時(土日は10時まで、ラストオーダー1時間前)。火曜休み。