緩やかな斜面に這(は)うように建てられた保育園。傾斜に合わせて階段状の保育室をつくったのは、なぜ?
印旛沼に近い千葉県佐倉市の丘陵地。山林に囲まれた県道を車で進むと、ガラス張りの建物が目にとまる。子どもたち60人が入園できる「はくすい保育園」だ。
敷地は南に向かって傾斜し、斜面にそった幅約40メートルの園舎は両端で5メートルほどの高低差がある。室内は約500平方メートルのフロアが6段の階段状に連なり、間仕切りの壁がない大空間を何十本もの柱が支えている。
柔らかな光が、大きなガラス窓から差し込む。林立する柱のなかにたたずむと、まるで周辺の林に包まれているような感じだ。
設計したのは山﨑健太郎さん(48)。水や緑が豊かな佐倉市出身で、建築予定地を見たとき、こう考えたという。「斜面など佐倉の風土をいかした方が、子どもたちがのびのびと過ごせるのではないか」
保育園は「大きな家」とも考えた。年齢が違う子どもたちが同じ空間にいることで、交流が活発になる。開放的な空間で死角を減らし、古民家の「縁側」ぐらいの段差や斜面のなかで駆け回ることが幼少期の感覚を育ませるのではないか。
傾斜地をいかしたデザインで園舎の模型をつくり、保育園を運営する社会福祉法人「誠友会」に提示した。安全面を心配する声もあがったが、理事会などをへて実現した。理事長の竹内淳さん(72)は、地域コミュニティーが一体となって子どもたちを育てていくという方針を重んじたという。
誠友会は、保育園のすぐ近くで高齢者施設も運営している。お年寄りたちは元気な子どもたちを眺め、子どもたちが施設を訪れて一緒に遊んだり工作をしたりすることもある。
斜面に立つため、季節によっては窓を大きく開けると心地よい風が園舎を通り抜ける。近くの農園で野菜や果物を栽培し給食で食べる食育も行う。子どもたちを温かく見つめる園長の竹内久美子さんは「自然の中でおおらかな気持ちが育っています」。地域の大人たちに見守られながら、子どもたちは元気に園内外を駆け回っていた。
(中山幸穂、写真も)
DATA 設計:山﨑健太郎デザインワークショップ 《最寄り駅》:京成佐倉駅からバス |
徒歩15分の金子牧場(☎043・485・0792)は、牛舎でとれた牛乳から作るソフトクリーム(大500円、小300円)とプリン(550円)が人気。店に行くと看板ヤギがお出迎えしてくれることも。午前10時~午後4時(2月まで、3月以降は午前10時~午後5時)。(水)休み。