木造瓦ぶきの花屋の奥に、鉄骨フレームに囲まれたオープンカフェが現れた。なぜこんな組み合わせに?
渋沢栄一や鳩山一郎ら著名人が眠る谷中霊園(東京都台東区)。その入り口に老舗の花屋「花重」がある。黒い瓦屋根が鮮やかで、木組みの天井は温かさを感じさせる町屋建築だ。
1870(明治3)年創業。店舗のほかに住居や倉庫、社員寮を増築していった。店舗は2003年に国の登録有形文化財に指定されたが、老朽化が進み、東日本大震災で損傷。時代とともに花の需要も落ち込み、20年に店を閉じることになった。
4代目の中瀬いくよさんは「文化財だけは残したかった」。その思いを地元の不動産会社が受け止める。花重の経営を受け継ぎ、中瀬さんに店主を続けるよう依頼。あわせて古民家再生に取り組む地域のNPO法人と建物保存を模索した。
「崩れかけて危険な状態。根元が腐っていた柱もありました」。リノベーションの設計を担った建築設計事務所の森田祥子さんは振り返る。当初は文化財の店舗だけを残し、カフェを新たに併設して街に開かれた場として再生する計画を立てた。
解体を進めると、店舗に隣接する建物が江戸時代にできた長屋であることが分かった。歴史を伝える長屋の部材を残し、カフェへのエントランスに生まれ変わらせた。
「花重の特徴は、運営も建物も変化しながら残っていたこと。今で止めるのではなく、次世代につなげたいと考えました」
テラス席を設けたカフェは、鉄骨の骨組みを際立たせた。鉄骨は溶接せず、木造建築によくみられる「継ぎ手」の技術を応用した。L字形の金具を組み合わせてボルトで留めており、増改築が容易になるという。
鉄骨は一部で切り妻屋根型に組まれ、屋内の柱や梁に呼応する。残した建物とのつながりも感じさせるつくりになった。
よみがえった店舗の2階には、当時のままの小さい窓がある。霊園を訪れる人を見下ろすことがないようにとの配慮からだと、中瀬さんは伝え聞いている。「当時の粋を、建物で伝えていますね」と目を細めた。
(鈴木麻純、写真も)
DATA 設計:MARU。architecture 《最寄り駅》:日暮里 |
徒歩10分の桃林堂上野本店は、昭和元年からこの地に根差す和菓子店。丹波大納言が詰まった一口サイズの「小鯛焼」(300円)が人気。イートインでは抹茶と和菓子のセット(900円~)も。午前9時半~午後5時。不定休。問い合わせは03・3828・9826。