木造2階建ての旧海軍施設が、女性たちの居場所になっている。戦前の建築を守り続ける理由は?
JR呉駅から10分ほど住宅街を歩くと、焦げ茶色の木造建築が目にとまる。所々で木の板がはがれかけた壁には、「呉YWCA」の看板が掲げられていた。
「小学生の時、絵の教室に何回か連れてきてもらいましたが、当時と雰囲気は変わっていないんですよ」。建物の管理を担当する家頭昌子(やがしら・まさこ)さん(63)は話す。
2階建て、延べ床面積約560平方メートルの施設は旧海軍の倉庫だったと伝えられている。呉大空襲の戦災を免れた木造建築は終戦直後、英連邦の進駐軍が使用した。進駐軍の女性らの呼びかけに押され、呉市のキリスト教会に関わる女性たちが1948年、呉YWCAを発足。建物も呉YWCAに払い下げられた。
女性の社会参画や平和を目指す活動の傍ら、当初は、外国の軍人と結婚した「戦争花嫁」が海外に渡る前、英語や外国の料理、マナーを学ぶ場として活用された。また、子どもたちの習い事教室も開かれるようになった。
しかし、時とともに建物がほころび始めた。雨漏りに始まり、2階の旧礼拝堂は床板がささくれる。2015年ごろには床が最大7センチも傾斜。調べると梁の一部がたわみ、安全な利用が難しくなっていった。
呉YWCAの会員も減少し、売却の話が持ち上がったが、こんな声があちこちから寄せられたという。「この場所が心の拠り所だった」。大切に思われている場所ならばできる限り残そうと呉YWCAとして決めた。
梁の改修を進め、2021年にはクラウドファンディングで資金を調達。2階の床板を補修し、授乳スペース付きのトイレを新設した。
コロナ禍で雇い止めや収入減に苦しむ親たちの声が届くようになった。月1回だった子ども食堂を「地域・子ども食堂」にして月2回に増やし、2023年にフードバンク用の部屋をつくった。今では市内の子ども食堂に食料を分けるなど、重要な拠点となっている。
「女性や子どもたち、挑戦しようと頑張る人を支える場所」。そんな理念を胸に、家頭さんたちは傷みが絶えない古建築を守り続けている。
(田中沙織、写真も)
DATA 設計:不明 《最寄り》:呉 |
徒歩4分の旧呉海軍下士官兵集会所(青山クラブ)は、戦前は海軍の下士官兵集会所、戦後は海上自衛隊の福利厚生施設として使用された。2016年公開の映画「この世界の片隅に」にも登場した。地上3階地下1階の建物には入れないが、外壁に映画の場面を模したイラストが描かれている。問い合わせは呉市企画部企画課(0823・25・3274)。
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