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横浜貿易会館(横浜市中区)

渋い外観 港町の異国情緒映す

暮れかかると、ひときわ陰影に富む外観

  海岸通1丁目1番地。港町の日暮れどき、渋いシルエットが浮かびあがる。

  大型客船が停泊する「大さん橋」に通じる交差点に面している。横浜貿易協会のビルで、オープンは1929年。協会の歴史はさらに古く、05年11月1日の設立で今年120周年を迎える。

  横浜港が開かれて以来、外国人たちを相手に、日本の輸出業者は絹織物や生糸を商ってきた。不利な取引を余儀なくされることも多く、力を合わせて海外との貿易に取り組もうと、協会を立ち上げたという。

  横浜貿易協会に40年ほど勤めてきた馬場孝幸さん(70)が、その歴史を語ってくれた。「貿易の広がりとともに生産、金融、港湾など、たくさんの企業が連なるようになり、現在のような自前の会館が建てられることになったのです」

  しゃれた外観だ。外壁は茶褐色で多数の溝があるスクラッチタイル張りで、道路に面した壁の両角には柱状の装飾がすっと伸びている。

  第2次世界大戦の空襲にも生き残ったが、終戦後は7年ほど進駐軍に接収された。このため史料が乏しく、詳細が分からないこともある。「協会のオフィスの板張りの床や、木材をいかした壁は今も現役で、オープン当初のままだと思います」と馬場さん。2011年には横浜市の「歴史的建造物」に登録された。

  テナントも時代とともに変わっていった。海運が盛んだった頃は旅行社が入り、船便の切符を扱っていた。外国人向けの土産物店もあったという。

  北欧料理のレストラン「スカンディヤ」は1963年にオープンし、いまもにぎわっている。シャンデリアが輝き、テーブルにはキャンドルがともる。「にしんのくんせい ノルウェースタイル」「デンマークキャビア」が並ぶ前菜のメニューに、異国情緒という言葉がふと浮かぶ。

 「ここでプロポーズされた方もたくさんおられます。結婚記念日にご夫婦で再び来られる方も珍しくないです。変わってないね、と言われると、うれしいものですね」と料理長の荒川裕之さん(69)は話す。

  港町の歳月を映す会館は、人々の母港にもなっている。

(木元健二、写真も)

 DATA

  設計:大倉土木(現・大成建設)
  階数:地上3階、地下1階
  用途:事務所、飲食店
  完成:1929年

 《最寄り駅》:日本大通り


建モノがたり

 徒歩約5分の山下公園は関東大震災のがれきを埋め立てて造られた。横浜ベイブリッジなどが眺められる。公園前に係留されている「日本郵船氷川丸」(☎045・641・4362)は国の重要文化財。見学でき、屋外デッキにも出られる。午前10時~午後5時(入館は4時半まで)。一般300円。月曜(祝日の場合、翌平日)休み。

2025年4月15日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。