読んでたのしい、当たってうれしい。

現在
47プレゼント

藤田美術館(大阪市)

作品を主役に 喜び分かつ新拠点

上を向いた庇は、直射日光を遮りながらも明るさを保っている

 JR大阪城北詰駅の近く、住宅や介護施設のある静かな交差点の一角に、ガラス張りの開放的な空間が姿を見せた。

 いくつものパネルを並べてなだらかな傾斜をつけた白い屋根は、ひさしが外に向かってあがっている。訪れる人々を迎え入れるかのようだ。

 藤田美術館は、明治時代の実業家・藤田伝三郎らが収集した茶道具などを展示するため、邸宅の敷地内にあった蔵を利用して1954年に開かれた。蔵の老朽化に伴い、2017年から休館。3年前にリニューアルオープンした。

 設計を担当した大成建設の平井浩之さん(60)は「美術館は美術品が主役。長い歴史もある。緑豊かな周辺との調和を図りつつ、建築がでしゃばらないようなデザインにした」と振り返る。

 モダンな建物の中に入ると、旧藤田邸の面影が漂う。床面の一部に敷石を並べ、ベンチは梁に使われていた木材を再利用した。展示室の入り口には、蔵のシンボルだった重厚感のある扉を設置。庭園にしつらえた多宝塔や茶室も含めて、なつかしさを喜ぶ利用者も多いという。

 「貴重な美術品を広く公開して、喜びを分かち合いたい」。そう言い伝えられている藤田の願いも大切にした。休館中に隣接する都市公園との間にあった塀を撤去。公園と美術館をつなげる人の流れが生まれた。

 美術館内に設けた茶屋では、現代作家制作の茶わんで抹茶が提供される。見るだけでなく、美術品に触れてみてほしいと、藤田に思いをはせて実現したという。

 「館内から庭園を通して公園も見えるようになり、景色が広がった。多くの人が集まり、自然と美術館にどっぷり浸れる環境に育てていきたい」と藤田美術館の藤田清館長(47)は話す。

 その意味で、リニューアルした美術館の「本当の完成」は数十年後とイメージしているという。「訪れる人が使うことで味わいが増す」と藤田館長。新旧さまざまな思いが詰まった美術館の歴史が、改めて始まっている。

(増田裕子)

 DATA

  設計:大成建設
  階数:地下1階、地上2階
  用途:美術館
  完成:2020年8月

 《最寄り駅》:大阪城北詰

 

建モノがたり

 徒歩約15分の造幣博物館(☎06・6351・8509)は1911(明治44)年に火力発電所として建てられたレンガ造りの建築。69年に博物館として開館、2009年にリニューアルオープンした。造幣局の歴史や国内外の貨幣を見ることができる。午前9時~午後4時45分(入館は4時まで)。年末年始、「桜の通り抜け」開催期間は休み。

2025年5月20日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。