JR大阪城北詰駅の近く、住宅や介護施設のある静かな交差点の一角に、ガラス張りの開放的な空間が姿を見せた。
いくつものパネルを並べてなだらかな傾斜をつけた白い屋根は、ひさしが外に向かってあがっている。訪れる人々を迎え入れるかのようだ。
藤田美術館は、明治時代の実業家・藤田伝三郎らが収集した茶道具などを展示するため、邸宅の敷地内にあった蔵を利用して1954年に開かれた。蔵の老朽化に伴い、2017年から休館。3年前にリニューアルオープンした。
設計を担当した大成建設の平井浩之さん(60)は「美術館は美術品が主役。長い歴史もある。緑豊かな周辺との調和を図りつつ、建築がでしゃばらないようなデザインにした」と振り返る。
モダンな建物の中に入ると、旧藤田邸の面影が漂う。床面の一部に敷石を並べ、ベンチは梁に使われていた木材を再利用した。展示室の入り口には、蔵のシンボルだった重厚感のある扉を設置。庭園にしつらえた多宝塔や茶室も含めて、なつかしさを喜ぶ利用者も多いという。
「貴重な美術品を広く公開して、喜びを分かち合いたい」。そう言い伝えられている藤田の願いも大切にした。休館中に隣接する都市公園との間にあった塀を撤去。公園と美術館をつなげる人の流れが生まれた。
美術館内に設けた茶屋では、現代作家制作の茶わんで抹茶が提供される。見るだけでなく、美術品に触れてみてほしいと、藤田に思いをはせて実現したという。
「館内から庭園を通して公園も見えるようになり、景色が広がった。多くの人が集まり、自然と美術館にどっぷり浸れる環境に育てていきたい」と藤田美術館の藤田清館長(47)は話す。
その意味で、リニューアルした美術館の「本当の完成」は数十年後とイメージしているという。「訪れる人が使うことで味わいが増す」と藤田館長。新旧さまざまな思いが詰まった美術館の歴史が、改めて始まっている。
(増田裕子)
DATA 設計:大成建設 《最寄り駅》:大阪城北詰 |
徒歩約15分の造幣博物館(☎06・6351・8509)は1911(明治44)年に火力発電所として建てられたレンガ造りの建築。69年に博物館として開館、2009年にリニューアルオープンした。造幣局の歴史や国内外の貨幣を見ることができる。午前9時~午後4時45分(入館は4時まで)。年末年始、「桜の通り抜け」開催期間は休み。