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大子町庁舎(茨城県)

県産の「木立」が支える空間と行政

議場は伝統工芸細工のような意匠が目を引く 庁舎2階のブックラウンジは誰でも利用できる 大子漆を施した課名札は経年でつやを増していくという 山野と呼応する柱は外観にも 庁舎1階でも方杖の圧迫感を感じない

木立のような柱が規則的に並んでいる。高台に立つ茨城県大子町庁舎は、森のような佇まいだ。

 

 日本三名瀑の一つに数えられる「袋田の滝」がある大子町は2018年、築60年を迎える庁舎の改築に着手していた。鉄骨造の設計が固まっていた19年、台風の豪雨に見舞われる。庁舎は約2メートル浸水。JR水郡線の鉄橋が流され、死傷者も出る惨事となった。

 白紙になった改築計画は、建設予定地を高台に移して仕切り直しに。そこに県からの後押しもあり、「県産材をいかした木造建設」へ舵を切った。

 「かねて一般住居に用いる建材で、大きな公共建築ができないかと考えていました」。設計を担当していた建築家の遠藤克彦さん(55)は、木造での設計をはじめた。

 行政棟や議会ホール棟、倉庫棟からなる新庁舎。木造2階建ての行政棟は、高さ約9メートルの空間を支える柱と、それを斜めから支える「方杖」が特徴的だ。柱の間隔を3.6メートルにそろえ、床上1.2メートルの高さから方杖を張り出したデザインは、枝を力強く上方に伸ばす木立のようにみえる。

 耐震性と補修のしやすさ、職員の業務に支障が出ない空間をバランスよく確保した。柱の間隔は一般住宅のサイズに近づけたという。

 一方で、渡り廊下でつなぐ議会ホール棟内の議場は、柱のない広々とした空間に。スギの細長い板を並べた壁面は、職人による細工が光る。

 使った県産材は約900立方メートルで、24センチ角の主要な柱は計約600本にのぼる。地元の森林組合は、伐採できるまで成長したスギをドローンで調査し、建材を調達。大子町が抱える八溝山系のスギはヒノキに近い強度があり、スギ材を多く活用できた。

 新庁舎に使った木材のうち、町産材は6割。各課の表示板には地元産の漆が塗られている。「地域に根ざした庁舎です」。まちづくり課の北村英之さん(43)は語る。非常用発電機なども備えられ、防災拠点にもなっている。

 遠藤さんは「地元にある素材は立派な社会資本」と話す。どこの地域でも地元の社会資本を育て、活用していければ――。周囲の山野と呼応する庁舎には、そんな願いも込められている。

(鈴木麻純、写真も)

 DATA

  設計:遠藤克彦建築研究所
  階数:地上2階
  用途:庁舎、議場など
  完成:2022年7月

 《最寄り駅》:常陸大子


建モノがたり

 車で約5分の旧上岡小学校は、明治から昭和にかけて建築・増改築された、国登録有形文化財の木造校舎。NHK朝ドラ「あんぱん」などの撮影が行われる人気のロケ地に。午前9時~午後4時。原則土・日曜日と祝日に開校。問い合わせは大子町観光商工課☎0295・72・1138。

2025年6月3日、朝日新聞夕刊記事から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。商品価格、営業時間など、すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。