手のひらに乗るような小さな花束は、木のかけらから作られていました。総面積の9割を森林が占める福島県南会津町で、かんなくずを木の花に生まれ変わらせる動きが生まれています。「自然のぬくもりや癒やしを感じられる作品を通して、地元の特産材の魅力を知ってほしい」。地域の人たちのそんな思いが込められています。(中山幸穂)
※きとねの建モノがたりはこちら
https://www.asahi-mullion.com/column/article/tatemono/6524
南会津町の「みなみあいづ森と木の情報・活動ステーションきとね」で5月31日、ウッドアートのワークショップが開かれました。テーブルに広がるのは、サイズがばらばらのかんなくずのかたまり。向こう側が透けて見えるぐらい薄いのに、長いものは2メートルほどにもなります。
ワークショップの様子
「かんなくずを手に取り、香りや肌触りに癒やされながら作業してください」。町職員の渡部絵美さん(34)の声かけで、参加者は手を動かし始めました。細長いかんなくずをくるくると巻き付けたり、はさみで切ったり。だんだんと花の形に近づき、長さ50センチ以上あった長いかんなくずからは直径7センチほどのカーネーション風の花びらができあがりました。
参加者はできた花をリースに巻き付け、それぞれ好みの木の実やリボン、レーザー加工機で文字を入れた木のプレートなどで飾り付けをして完成させました。
渡部さんによると、できる花びらはカーネーションやバラ、チューリップなどさまざま。「かんなくずでも、スギなどは霧を吹き付けるとやさしい香りが広がります。できあがった花にアロマを数滴垂らすと、ディフューザーにもなるんですよ」
ワークショップでつくられたリース
渡部さんが本格的にかんなくずから木の花を作るようになったのは、1年ほど前になります。きっかけは、ウッドデザイン賞を受賞した木製のコサージュ「Forest Corsage」を渡部正義町長が持ち帰ってきたことでした。長野県北相木村で木材加工の際に出るかんなくずなどを使ってつくられた製品でした。
2年前に農林課に異動となり、隣席の職員から教えてもらった「木育」について興味を持ち始めていた渡部さん。仕事で木に触れて、その香りや肌触りにひかれていくなかで、「卒業式や入学式のリボンを木の花で作れたらよさそう」と思い浮かべました。
南会津町は92%が森林に覆われた中山間地で、林業や木材加工業がさかんな地域です。渡部さんは町内の工務店や木製品加工所に足を運び、かんなくずをもらって制作を始めました。YouTubeをみて独学で進めるうちに、より多くの種類の木の花を作れるようになりたいと思い、民間グループの「MOKKAウッドアートアドバイザー講座」を受講。今年2月には「Forest Corsage」を製作した長野県の民間団体「キノハナkinano」にも出向き、キノハナマイスターも取得しました。
渡部さんが制作した「花束」
少しでも興味を持つ人が増えてほしいと、作った作品を役場内のカフェや町のパン屋などに置いてもらってきました。口コミで広がり、最近では知り合いを通じて制作を依頼され、ワークショップ開催を求められることが増えてきたそうです。小学校から環境学習の一環として教えにきてほしいという声もあがっています。町内には、NPO法人「芸術と遊び創造協会」認定の木育インストラクターが33人を数え、かんなくずから木の花をつくるグループ活動も広がりをみせています。
木育インストラクターのメンバーら
かんなくずは、木を削って材木にするときに発生する「産業廃棄物」です。一方で、透明感のある美しい見た目や二次利用も可能なことから「削り華」とも呼ばれています。渡部さんは、これからも新たな作品づくりに挑戦していきたいと思っています。「木って本当に余すところがないんです。木育インストラクターのみなさんに技術を伝えつつ、町内外の人たちに南会津産の木材の魅力をPRできればうれしいです」
渡部絵美さん(左)
森林で調査をする渡部絵美さん