連日にぎわう大阪・関西万博。閉幕後の建物の利活用も話題となるなか、1970年大阪万博のパビリオンは今――。
神戸市北区の閑静なベッドタウンにある広陵町自治会館集会所。高さ約12メートルのオレンジ色の三角屋根は、住宅街でひときわ目立つ。屋根の先端を「水の神」という蛇の装飾が彩る異国情緒豊かな建物は、55年前の大阪万博で使われた「カンボジア館」だ。
住宅会社が入札し、万博の翌年にこの地へ移築。「パビリオンのある街」として宅地開発し、92年に地域へ寄贈された。現在はスポーツ教室などで、年間延べ1万5千人が利用する。
「地域では今もこの場所を『パビリオン』と呼ぶんです」。そう話すのは、太極拳の会に通う杉本茂さん(79)。移築時に2階建てから吹き抜けへと作り替えられた館内では、太極拳の剣ものびのびと振れるという。
「杉本さんは、当時の万博でカンボジア館を訪れた一人。万博後に偶然この街へ引っ越し、思わぬ再会を果たした。「当時の万博会場でも目立っていたため、外観を覚えていました。唯一無二の建物です」
自治会長の田中收さん(76)も「ここは生きたパビリオン。飾り物じゃない貴重なレガシー」と言う。ほぼ当時の姿のまま現存し、自由に見学や使用ができるパビリオンは日本でここだけと胸を張る。
建物は伝統建築に近代的な採光用の窓を取り入れた「新クメール建築」。館内には王家の紋章や、当時の展示物だったアンコールワットの写真パネルが掲げられている。
一時は老朽化から建て替え案も出たが、耐震性に問題がないことが分かり、自治会の積立金など約2700万円をかけて8年前に修繕した。建物を象徴する特殊な形のスレート瓦を全国から探し出すことに苦労したという。工事を監修した藤波建設の久原藤利社長(62)は「知恵を絞って60度の急勾配の屋根に沿わせた足場を組んだ」と振り返る。
田中会長は最近、屋根の形状がかすかに膨らんでいる工夫に気づいたという。「平面的でなく、遠くから見ると非常にきれい。強い風も逃がす、すごい建物」
すでに先の修繕費用を確保し、まずは築100年を目指している。
(中村さやか、写真も)
DATA 設計:ウク・ソメス 《最寄り駅》:山の街 |
一帯の住宅街を抜けると現れる都市近郊型の弓削牧場(☎078・581・3220)へは徒歩約30分。併設するチーズハウス・ヤルゴイで、自家製の乳製品が楽しめる。チーズプレートや、乳清をベースにしたシチューのランチセットなどが人気。午前11時~午後4時半(2時~カフェ)。火水休み。