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霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ(茨城県行方市)

新たに誕生した「動物園」に檻はない。

 新たに誕生した「動物園」に檻はない。まわりに延びる歩廊が緩やかに動物を包み込む。

 なぜこんな造りに?JR土浦駅からバスで約50分、霞ケ浦大橋を渡ると「霞ケ浦どうぶつとみんなのいえ」が見えてくる。曲面を描く大屋根は、湖畔に生い茂る木々に溶け込んでいるように映る。
 中に入ると、約2万平方メートルの敷地の大半は屋外で、周囲を歩廊が囲んでいた。カーブを描きながらアップダウンがあり、間近にキリンを見上げたり、ペンギンをななめに見下ろしたりできる。
 「動物との距離の近さを大切にし、人間と動物の境界をつくらない施設をめざしました」。運営するMOFFの笹尾昌さん(52)は話す。
 この地には元々、旧玉造町(現・行方市)などが1992年に開設した「水の科学館」があった。来場者数の減少に伴い、市は再生整備の事業者を公募。「動物や自然と人間が共生する場づくり」を掲げたMOFFの案が選ばれた。
 「人間と自然の関係を建築の力で構築し直すことが必要ではないか」。設計を担当した建築家の髙橋一平さん(47)は、利用者が激減した「ハコ物」の旧科学館を目の当たりにして感じたという。霞ケ浦という豊かな環境がすぐ近くにあり、「自然への入り口」となる建築を考案した。
 ゆるやかに弧を描く歩廊は、動物たちを守りつつも空や自然環境とつながるよう、地表の起伏のように描いた。風の通り道を確保し、野鳥の出入りも自然にゆだねた。
 建築物としては、「人工と自然、旧施設と新施設が混然一体となる新しい環境」をつくり出したという。「ヤギのいる遺跡」は、旧科学館の玄関前のコンクリート階段を残す一方で、タイルをはがして大きな穴をあけた。「キリンの居間」は、旧科学館を曲面の大屋根だけ残して動物が暮らすスペースを設けた。
 「人間が主体でつくられてきた建築のあり方を見直す」。そんなコンセプトが込められているという。
 歩廊を進んでいると、不意にキリンにのぞき込まれた。黒曜石のような目にみつめられ、見に行ったはずが見られているような、不思議な気持ちになった。

(水越悠美子、写真も)

 DATA

  設計:髙橋一平建築事務所
  階数:地上2階
  用途:博物館、動物園など
  完成:2024年

 《最寄り駅》:土浦


建モノがたり

  徒歩約1分の行方市観光物産館こいこい(☎0299・36・2781)では地域の特産品を購入できる。注目は行方バーガー。霞ケ浦でとれたナマズをベースにした「なめパックン」や、コイを使った「こいパックン」など4種のご当地ハンバーガーが楽しめる。フードコートの営業時間は午前10時~午後4時(土日祝は5時まで)。

2025年10月7日、朝日新聞夕刊から。記事・画像の無断転載・複製を禁じます。すべての情報は掲載時点のものです。ご利用の際は改めてご確認ください。