ここは駅? モダンな建物は駅舎のようであり、脇に電車が止まっている。いったいなぜ。
山陽電車が走る瀬戸内沿岸の兵庫県東播磨地域。住宅が点在する田畑にオレンジと緑のツートンカラーの電車がある。
窓の一部にはカーテンがかかり、車体には小さな亀裂も見える。隣接する片流れの屋根の平屋は駅舎のようで、駅のプラットホームを彷彿(ほうふつ)させる。
会社員の木村浩輔さん(42)の自宅だ。夫婦と高校生、中学生の子ども4人で暮らしている。
電車は、木村さんが物心ついた頃から同じ場所にあった。大伯父が山陽電鉄で使われていた車両を譲り受けて敷地に置いたと聞いている。
車内の半分を畳敷きにして、友達を呼んで囲碁をしたり、車両の周りに花を植えて公園のようにしたり。幼稚園児が遠足に来るなど、地域の憩いの場だった。
木村さんが大学生の時、車内で友人や彼女との飲み会も開いていた。その彼女と結婚し、社会人になってこの地を受け継ぎ、自宅を新築することに決めた。
建築家岸本貴信さん(50)に設計を依頼した際、敷地を広く使うため電車は撤去されると思っていた。しかし、現地に足を運んだ岸本さんは、車内に飾ってあった地元の人からの感謝状や紹介する新聞記事を目にして、「地域で親しまれ、土地の風景の一部になっている」と感じた。
風景との調和を重んじ、あるものをいかすのが岸本さんの建築哲学。出来上がった建築模型は、電車を居住空間の一部として活用する案だった。意外な提案だったが、木村さんは「面白い暮らしになるかもしれない」と思った。
母屋はロフトがある1LDK。電車は残っていた座席やつり革を撤去して合板を張り、完成から数年間は子どもの遊び場と友人を招いてくつろぐスペースとして使っていた。今は窓の一部をふさいで気密性を高めて真ん中を仕切り、成長した2人の子どもの部屋にしている。
夕暮れ。地域や家族の物語を受け継ぐ「プラットホーム」に灯(あか)りがともる。
(山田愛 )
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DATA 設計:岸本貴信/CONTAINER DESIGN 《最寄り駅》:宝殿 |
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高砂市内の宝殿山山腹の生石(おうしこ)神社(☎079・447・1006)に、ご神体としてまつられている「石の宝殿」。横約6.5メートル、高さ約5.6メートル、奥行き約7.5メートルの巨石がまるで水に浮いているように見える。いつ誰がつくったかは不明だが、8世紀前半の「播磨国風土記」にすでに記述がある。料金100円。