渋谷駅前の雑踏を抜けて10分ほど歩くと、マンションや住宅の隣にガラス張りの温室のような建物が現れる。周りにオリーブやレモンの木々が茂る。入り口付近の窓からのぞくと木製カウンターが見え、レストランかホテルの雰囲気だ。
でも、ここは植物園。「日本一小さな植物園」をキャッチコピーにする「渋谷区ふれあい植物センター」だ。地上4階建ての開放的な吹き抜けにココヤシやパイナップル、バナナ、マンゴーなどが葉を広げ、光あふれる空間にカフェやライブラリー、シアタースペースもある。
2005年に近くの渋谷清掃工場で発電した電力を使った地域還元施設として開園。施設の老朽化に伴って23年にリニューアルし、「農と食の地域の拠点」として再出発した。
目指すのは「育てて食べる植物園」。バナナなどの果物をイベントの来場者に収穫して食べてもらい、園内で水耕栽培したルッコラやレタスなどの野菜はカフェで提供している。
高低差のある五つの巨大なキノコ形構造物の間を階段で上っていくと、下から見ていた木々を上から見るようになり、いろんな視点で植物を楽しめる。この大きなキノコが植物の濃淡の中にとけ込み、森の中を散策しながら小山や丘をのぼるような感覚だ。
設計した吉田愛さんは「植物と人の距離感が近くなるよう小さな空間を生かしたデザインを考えた」と言う。キノコ形の構造物を造ることで植物を植える面積が増え、その上部は日照量も多くなる。
屋上ではお茶やホップなどを栽培。園では一緒に植物を育てるボランティアを募集しているほか、家庭菜園講座や生ゴミを堆肥にするコンポスト講座など、「循環」を実践するワークショップも実施している。
園長の小倉崇さんは「参加型の植物園として、自然の循環を凝縮させ、体験として学ぶことができる都市生活者のための植物園にしていきたい」と話す。
「映えスポット」としてSNSで話題になっている。ヤシを背景に自撮りしたり、空きスペースで読書をしたり。渋谷らしい、公園のような自由な空間だ。
(佐藤直子、写真も)
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